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 消毒薬の匂いが漂う白い病室で、両親が今にも土下座せんばかりの平身低頭で謝罪している。 「この度はうちのバカ息子が、秋彦くんに大変なご迷惑をお掛けしてしまい──お詫びの致し様もございません。全ては息子の落ち度ですので、出来る限りの責任は負わせていただきます。申し訳ありません。──申し訳、ございませんでした!何卒ご容赦を!!この償いはいかようにでも──!!!」  どうみてもやりすぎなんだよ──観月の親、ドン引きしてるじゃん……。 「日永さん顔を上げて下さい──!これは単に事故です。どちらかが一方的に加害者ではありませんから。もし悪いというのでしたら春真くんを驚かせたうちの秋彦の方ですから──」  強ばっていく観月の父親の顔を見るに、オレが感じている通りうちの親はやはり大仰すぎるというか──おかしいんだろう。  普段はオレに暴力ばっかり振るっているくせに外ではえらく小心者だ。 「何をやってる!お前も頭を下げないか!」  突然、父親に後頭部を鷲掴みにされ乱暴に押し下げられた。背中の方でグキッと骨の鳴る嫌な音がする。 「いやいや!本当に日永さん!止めて下さい。──ここ病室ですし、ね。お茶でも飲みながらお話しませんか──春真くんもホントに気にしないでね──ちょっと秋彦の話し相手してやってて、くれるかな?」  大人たちが出て行くのを見送って、観月がベッドの上からオレに声を掛けた。 「ねえ日永、こっち来なよ。そこ座って──」 「うん──観月ごめん、手、痛む──?」 「全然。麻酔効いてるし。それより──これ、お前の方が痛くない?親父さん……怖いね」  観月が父親に対して一般的と思われる感想を述べて、そっと左手を頬に伸ばす。指の背で、かすめる程度の感触が撫でていく。  隠せないのだから見付かって当然だった。    父はかなりの癇癪持ちで意にそぐわない事があるとオレを殴る。原因がオレでもそうでなくても。  これは病院に来る前、知らせを受けて仕事から帰ってきた父親にやられた分だ。躾だという一応の言い訳があるから他人から見える場所であろうと気にしない。今回はたまたま顔だった。  だがこれは──いつもの通り魔のような暴行よりはまだ──意味がある。 「観月に比べたらこんなの全然、痛くないよ」 「日永……。ね、春真って呼んでもいい?  オレのことも秋彦って呼んでよ」 「い、い──けど──」  なんでだ。  観月には全く怒った素振りがない。  どう言い繕っても加害者はオレだ。  オレは──気まずくてしょうがないのに。 「春真ごめんね?仲良くないのにいきなり抱きついて。でもこれから仲良くしよ。ね」  オレが責任を感じないように──言ってるんだろう。これが観月の気の遣い方なのだと思った。気後れから敬遠してしまう自分とは正反対だ。 「オレ達さあ、二人とも名前に季節が入ってるね。春と秋って対称だよねー」  事故の話はもう終わり。それより友達として話をしよう──そう言うかのように観月が笑う。その無邪気さを眩しく感じる。  クラスの中でいつも人に囲まれ楽しそうな理由が分かった。観月の傍にいると心地いい。  オレは観月に顔を向けて、ぎこちなく、  それでもなんとか微笑み返した。

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