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オレは学校に復帰した秋彦のサポートを献身的に行った。執事にでもなったのかと周りから笑われたが傍に居られればなんでも良かった。
性格のせいか元々遠慮は無かったが、オレが自発的に尽くしていると理解すると、秋彦は次第にひな鳥のように甘えるようになった。
オレにも全く違和感はなくて、まるで昔からずっと一緒に居たような気持ちになっていた。
「秋彦、なんか不便なことない?オレ代わりにやるから何でも言えよ」
「もう十分やってくれてるじゃん」
昼休みの教室で他愛のない雑談をする。
上手く押さえられない箸は面倒だと、怪我をしてから秋彦の昼食はずっとパンだ。
「お弁当持ってきても良いよ。食べさせるし」
「あーんも捨てがたいね。でもオレ、パンも好きだからなあ。あそうだ、ねえ春真。右手使えなくて一番不便なことってなんだか分かるー?」
軽口の続きでごく自然な口調にも関わらず、オレの身体がギクリと強張る。
──やましい気持ちを見透かされたのかと思った。
ここ最近、オレはおかしかった。
秋彦を過剰に意識するようになった。
懐かしい気持ちになる甘やかな体臭や、子供のように高い体温、耳触りの良い柔らかい声──。それらがただ好ましいだけならまだしも誤魔化しようもなく性的な反応を引き起こした。
それを思い出しながら昨日オレがしたことを秋彦は知ってるんじゃないかと、咄嗟に思ってしまった。そんなはずはないのに。
「えー沈黙長くない?なに考えたの。もしかして──オナニーとか思った?あはは」
「思ってねえよっ」
それは嘘だ。
「ほんと?でもオレ別に出来なくても困んないよ。月に一度もしてないし……あでも、オカズをセーラー服の春真にしたらヌけるかも」
月に一度もしてないの!?
意図せず得られた情報に興奮する。
滅多に自慰を必要としないという秋彦がオレの女装ならオカズにできる──生々しくて鼻血が出そうだ。
「っ……ばっかじゃ、ねえの」
「あっははーごめんキモかった?しないしない。ねえ、ちょっとイス持って隣きてよ。左ね、左」
「え?うん」
「正解は机に突っ伏して昼寝できないことでしたー。だからこのまま肩貸してよ、寝るからさ」
乗せられた頬が肩に甘えるように擦り寄せられて呼吸が一瞬止まる。
目を開ける様子はないので、髪が顔に掛かる寝顔をそっと盗み見た。
染めているには自然過ぎる茶色の髪の毛は柔らかそうだ。少しくせ毛でウエーブしている。真っ黒でまっすぐに落ちる髪質のオレとは全然違い、思わず触れてみたくなる。ふわふわした髪を指に絡ませてみたい。
濃く立ち昇る秋彦の匂いに動悸が激しくなっていく。
無防備な身体を抱きしめてしまいたい衝動を唇を噛んで堪 えた。
何も気付かず、秋彦は自分の肩に寄り掛かっている。その重みはたまらなく心地良い。
オレは手の内側で掻いたことのない汗をじっとりと感じていた。
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