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 原因はいつも通り、よく分からなかった。  気がつくと父親が怒鳴っていて、頬を張られたオレはよろけて壁に激突した。  そのまま家を飛び出して、あてのないまま駅に向かう。ロータリーのベンチに腰掛け、虚ろに人混みを眺めているとポケットが震えた。 『今なにしてんの』  秋彦からのラインだった。 『駅前だけど何もしてない』 『うっそ、ドコ?オレもちょうど駅』 「春真ぁ!」  返信をする前に秋彦の声が飛び込んできた。 「うわ偶然。なにー?春真も………」  見上げたオレの顔を見て言葉を切る。  怪我の治った右手がオレの頬に触れた。  あの時みたいに、かすめる程度に。 「……親父さん?」 「──うん」 「ねえ!今日春真うちに泊めるからー」  振り返って叫んだ先には秋彦の両親がそろっていた。秋彦の母がおっとりと微笑む。 「あらぁ春真くんこんばんわ。  もちろんどうぞ。いらっしゃい」 「あ、え。こんばんわ」 「今ね、親と飯食いに行った帰りだったんだ」 「ちょっと、泊まるってなに」 「無理?」 「……無理じゃないけど」 「じゃ、一緒に帰ろ」 「春真くん」  秋彦の父が真剣な表情でオレに歩み寄ってくる。 「はい」 「問題はない?」 「ない、です」 「──必要なら頼ってくれてもいいからね」  その気遣いは秋彦に似ている。  はいともいいえとも返事ができず、  オレはただ頷いた。  観月家に帰ると秋彦は特に何も言わずに頬の打撲を冷やしてくれた。  週末の金曜日の夜。  前から約束していたみたいに一緒に遊んで、兄弟みたいに同じベッドで寝た。  明け方、背中にぬくもりを感じて目を覚ますと、秋彦がオレを抱きまくらのように抱えて眠っていた。  まっすぐに伸びやかで人怖じすることのない彼がオレにだけ見せる無防備な表情。意外と寂しがり屋なのかもしれない秋彦の、こんな姿が見ていられるならライナスの毛布になるのも悪くない。  オレはそっと身を起こし、いつまでも秋彦の寝顔を眺めていた。

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