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それから具体的に何かが変わったわけじゃない。だけどオレにとっては蜜月みたいな時間が過ぎていった。
かわいいなどと言われたのは文化祭の日だけだった。でもオレたちはいつも一緒で、二人きりの時に秋彦が甘えて抱きついてくることも頻繁にあった。男友達に独占欲を見せることすら。
子供すぎたのか秋彦に自覚はないみたいだったが──仲が良いというには行き過ぎていた。自覚はなくても、他人の居る前では抱きついて甘えたりしない……それが証明でもあった。逆に早熟すぎたオレは益々深みにハマっていく。
あの頃、勇気を出して告白していたら──オレたちは両想いになっていた。この時期に限っては、哀しい事にうぬぼれじゃなくて確信だ。
だがそれは中2で秋彦が告白されるまでの話。女の子からの告白を秋彦は受け入れた。
秋彦の無意識に篩 を掛けられたオレは──選ばれなかった。
いま気付かなかったのなら今後もオレが恋愛対象として候補に上がる可能性は無いだろう。
……つまりは失恋。
そうして行き場を失った恋心はそこから12年間くすぶり続けている。何度も忘れようとしては無駄に終わった。
長く続いた彼女と秋彦が別れた時、欲が出てしまったことを──後悔している。だが、そんな事は有り得ないことだと思っていた。今の秋彦がオレに手を出すなんて。
──過去の記憶の片鱗が、オレに抱いていた気持ちを僅かでも呼び覚ましたんだと、そう思えただけで嬉しすぎて身を引くタイミングを失った。
辞めとけば、良かったよ。
身体を繋いだら余計に辛いだけだった。
オレとお前じゃ価値観が違いすぎる。
今は男同士が珍しくてオレに性欲をぶつけているだけ。いつか必ず飽きるはずだ──。
両想いになりたいなどとは思っていない。秋彦は気まぐれに下僕を弄ぶ王者のままでいい。子供じみた独占欲でオレを縛り付けてもいいし、忠誠の証を誓えと言えというなら好きだとでも愛してるとでも言う。
オレは多分一生、秋彦の存在を意識から追い出せない。そんなオレが何より怖いのは主従の繋がりすらも失くなった、秋彦の無い世界だから──。
…………だがこれは建前だった。
まるで真実のように普段はそう思い込んでいる。自分で自分を偽るために。
本当の気持ちは──こんなものでもまだ建前として通用するような──オレ自身だって認めちゃいけない狂った執着。
どうせ手に入らないのならお前なんかこの手で消してしまいたい。いつも当然の顔をしてオレをいいように振り回す。お前が欲しいから従うのだとも気付かずに。そうしたところで──絶対にオレだけのものになりはしない。
躾のなってない犬みたいなもんだ。どうやったって通じない。言うことも聞かないペットの気持ちなんか本当はどうだって良いんだよ。
オレだけを見て
オレだけの事を考えろ。
オレだけの言うことを聞く
オレだけの奴隷でいいんだよ。
野良犬にしておくからいけないんだ。
小屋に押し込め首輪を着けてリードで繋いで
自由を根こそぎ奪ってやろうか。
そんなこと不可能だろ?
──だったらオレの前から消えてなくなれ。
そうすればオレも、楽になる。
なあ秋彦。
自分勝手ってこういうことじゃないのか。
オレの方がよっぽどなんだよ。
あの親父の血をひいているオレは、
元からどっかおかしいんだと思ってる。
お前のせいじゃなくたって
お前はオレを惨めにする──。
──消えてほしいくらい憎んでるよ。
いっそ言ってしまえばいいのかもしれない。こんな気持ちの悪い本心を知れば、お前でもオレが嫌になる。顔も見たくなくなるだろう。
──だけど何を犠牲にしてもいいほど愛してるんだ。
重たく撓 んで腐りかけたこんな気持を、伝えることは絶対にない。
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