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第3話 羞恥は暗闇と両手で隠して

「し、シル? どうしたの?」 「お前、本当に俺のこと好きなのか?」  自分で拒否しておきながら、こんなこと聞くのはおかしいとわかっている。番いになっていないのに触れるなんて、そう言ったのも自分だ。  それでも、少しは触れられたい。従順に言いつけを守れる程度なら、運命の番いじゃないかもしれないだろう。ただ、匂いが好きで、オメガだから選んだだけ。  同居をするようになってから感じるようになった身を焦がすような自分のこれは、ただの勘違いなのか?  シルヴィオの言葉に、ドナは困ったように笑う。 「好きだけど、シルはあんまり触ってほしくないんでしょ?」 「……本音と建前くらい、わかるだろ。ばか」  ぎゅう、と毛並みで柔らかい身体を抱き締める。ランタンの火もまだ点いていない暗闇で、ドナの心音が早まるのが背中に当たる耳に響くように聞こえた。  ドナはシルヴィオの方へ向き直り、そのままに肩を掴む。  額に、ぺとりと何かが触れた。 「……?」 「やっぱ駄目! 恥ずかしいから今は無理です!」  暗闇に慣れてきた目は、ドナが両手で目を覆っているのを視界に捉えた。ふるふると首を振り恥ずかしがるそれはシルヴィオから距離をとり悶えているようだ。 「ちゅーしちゃった、遂にシルにちゅーしちゃった」  額に触れたのはどうやら鼻のようだ。犬獣人のキスは人間とは違うと聞いてはいたが、鼻を額に触れあわせただけでこんなにも恥じらうなんて。  勝手に盛り上がられて、少しだけ気に入らない。シルヴィオはドナの両手が塞がっている内にと正面から抱きついた。 「シルヴィオ、待って、お願い」 「待たない。……誰かをこんなに好きになったの、お前が初めてなんだ。後悔したくない」  触れられずに誰かに取られるくらいなら、覚悟ができていないまま抱かれた方が余程いい。愛なんてまだわからない。それでも、確かにドナに恋をしている。  緊張し強張るシルヴィオの肩を、ドナはゆっくりと押し戻した。 「シル、離れて。本当に我慢できなくなっちゃうから」 「いつも余裕そうにしているくせに」 「本当にそう思ってる?」  いやに真剣な声色に、見上げるとドナはじっとシルヴィオのことを見下ろしていた。茶色い瞳が月明かりで金色に光り輝く。 「今は駄目だよ、俺まだシルヴィオのこと傷つけたくない。……っていうか、まだ俺もシルに触れる覚悟できてないからさ。おでこにちゅーするだけでも心臓ドキドキしてるのに、それ以上は勘弁してほしいな?」  ふにゃ、と真剣な表情が蕩けるように笑顔に変わる。それだけで、心臓がきゅうと締め付けられる錯覚に陥る。  好きで、もう他にはもう何も見えない。シルヴィオは赤くなったであろう顔を隠すために俯き、小さく頷いた。

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