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第4話 隣の部屋
顔を合わせるのが気恥ずかしくなり、1人で夕飯を作り向かい合わせでも顔を見合わせずに食べた。風呂はいつもシルヴィオが先。全身毛むくじゃらのドナが先に入ると床が毛だらけになってしまい不快だろうからという配慮……らしい。ロングのダブルコートの毛皮が濡れそぼったところを見られたくないのでは、とも思うが。
風呂から出たシルヴィオはドナの寝室の扉をノックした。返事が聞こえてから開き、中を覗き込む。
「風呂空いた」
「うん、すぐ入るね。あ、そうだ。3ヶ月後のお祭りなんだけどシルのお店も何かする?」
「お祭り?」
「うん。えっとね、大漁を祈願する海のお祭り。町の飲食店は大体が出店を出すんだけど、やっぱり喫湯店だと変かなぁ?」
「……少し考えてみる。料理でもいいんだろ?」
「別にこれを出さなきゃーみたいな決まりはないよ。やりたくないからやらなくてもいいみたいな感じだし」
それでも、祭りということは人の出入りが増える。町の外の者だって来るだろう。つまりは稼ぎ時。何もしないわけにはいくまい。
風呂に入ると部屋を出たドナを見送り、自分は向かいの部屋に入る。
まだ同居なだけで、番いにもなっていない。だから寝室も別がいいとシルヴィオが言った結果急遽ドナが用意してくれた。元は寝室は同じがいいと思っていたのだろう、彼の部屋のベッドはキングサイズで、シルヴィオの部屋のベッドは体に合わせたセミダブル。キングサイズのベッドの上で耳を伏せしょぼくれていた初日のことを思い出す。
可愛い。撫で回したくなる可愛さだ。あの日は夜までにベッドの用意ができず、シルヴィオをソファや床で寝かせられないと制止も聞かずドナが1階のソファで眠ったのだった。
今日は流石にベッドに入り込む勇気はない。自室のベッドに寝転びながら、下の階から聞こえる水の音に耳をすませる。嬉しいことでもあったのか鼻歌まで聞こえてきた。
目を閉じ、聴覚に意識を集中させているとほんのりと甘い香りが漂ってきた気がした。ドナが新しい香水でも買ったのだろうか。
だが、違った。甘い香りは徐々に強まり、意識が朦朧としてくる。その香りは階下から漂ってくるようで、逃れられないそれに脳みそが犯されてしまう感覚に陥った。
指先ひとつ動かすだけでも難しい。シーツが肌を擦るだけで、喉の奥から声が溢れる。
この声を、自分は1度だけ出した記憶がある。この甘く痺れるような感覚に似たものを知っている。
学校を卒業した日、親友と信じていた男に裏切られ襲われたあの時の声と、感覚。それに酷似していた。
それが何故今。混乱するも、身体はわかりやすく反応を示す。
これはもしかすると、オメガの発情期かもしれない。初めての感覚にひどく戸惑った。
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