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第7話 思い出すのは別の顔

 結局、ドナはシルヴィオの発情したフェロモンの誘惑を振り切るように仕事に出かけて行った。脱ぎたての服は置いて行ってくれたものの、体温が欲しいシルヴィオには余計にアルファを求めさせるだけ。  まだ微かに温もりが残る服に噛みつき、匂いを嗅ぎながら痛いほどに反応を示しているそこをベッドに擦らせるようにしながら腰を揺らす。どうすればいいのかもわからず、それでもこうして擦り付けていると頭がぐちゃぐちゃになってしまいそうなほど気持ちいい。ただ一心に、熱を吐き出すために自らの下腹部に手を伸ばした。  発情中のオメガを前に、我慢できる程度しか触れたいと思わないのか。シルヴィオは服を何度も噛みベッドから降りることもままならない身体を慰める。  今日この欲の波が引いた時に帰ってきたら、ドナとちゃんと話がしたい。同居してから暫く経つが、まだ伝えなければいけないことも言葉にできていないままだった。手紙では誤解があるかもしれないと、ずっと引きずってきた。  ドナに触れてほしい。こんなにもドナを想い身体が疼いているのに、脳裏によぎるのは彼ではなく別の、自分の元親友の顔。  裏切られた時のことなんてもう思い出したくないのに、ドナよりもあいつの顔が出てくるなんて。  忘れるためにも、ドナに触れられたい。何故自分が最初に拒んだかも全て言わなければ、彼はきっと虚勢を張っているのだと思ってしまうだろう。だから、あいつに抱かれたことも全て話し、番いになりに来たのだから早く抱いて、ドナだけのものにして欲しいと伝えたい。  別のことを考えていても、発情期の身体は抱かれたいと雄を求めて甘く啼くだけ。  シルヴィオは、いつ帰るかもわからないままドナの匂いを嗅ぎ、一人きりの部屋でただ喘いだ。

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