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第11話 どうしても触れてほしい

 発情には波がある。夕食の時は穏やかだったそれも、寝る前になるとまたあの感情が押し寄せる。  我慢できない。明日も早いからと風呂に入り早々に部屋に篭ってしまったドナを追うように、シルヴィオはそっと扉を開ける。  シルヴィオによって出された衣服は既に片付けられ、ドナは布団の中だ。背を向け寝息を立てているそれに近付き、隣にそっと潜り込む。  むせ返るようなアルファの匂い。あんな話をした後だ、どんな人間だと思われたって構わない。ドナの体に腕を這わせ、ただこの熱いのをどうにかしてほしいと尻尾に足を絡ませる。  背後から抱きしめられたことにより、眠っていたドナも起きたようだ。そしてすぐそばで発せられるオメガのフェロモンに、寝起きでなけなしの理性が一気に蝕まれる。 「シル?」  なるべく穏やかに。なるべく、刺激しないように。そう思っているのだろう、ドナは自身の大腿に爪を立てていた。  その手に触れ、やめさせる。その巨躯の上に跨り、シルヴィオはシャツのボタンを外した。  浅ましい人間だと思われてもいい。発情期だから仕方ないと思われてもいい。ただ、もう限界だ。 「シル、何してるの。やめて」 「これが最後で構わないから、この苦しいのどうにかしてくれよ」 「最後ってなに? しないよ、降りて」 「嫌だ。どれだけ傷つけられても構わない。俺よりいい匂いのするオメガなんて探せばいくらでもいるだろ、俺のことは性処理道具だと思ってくれてもいいから」 「何言ってるの? 俺、シル以外と番いになんて絶対にならないよ。やめて、早く退いて」 「そんなに、俺に触りたくない?」 「何度も言ってるだろ、シルが傷つくことはしたくない。発情期が終わればこんなことしたいなんて思わなくなるから」 「……思ってる。ずっと思ってた、でもお前が馬鹿正直に言うこと聞いて、ハグだけで済ませて、だから、自分がオメガだって実感した今しかないのに」  ベータとして生きてきて、オメガらしい実感なんてこの発情期が初めてだ。普段なら絶対に自分から積極的になんていけない、だから発情期の今しか、こうして行動になんて移せない。  そんなに抱きたくないのかと考えているうちに、シルヴィオはぼたぼたと涙を溢れさせた。  アルファなら、ベータの女だって孕ませられる。自分以外のオメガの匂いが嫌ならベータをパートナーにすればいい。でも、周りにお膳立てされたとはいえ自分はドナの番いになるため此処に来たようなものだ。手を出してさえくれないのなら、自分が此処にいる意味なんて。  シルヴィオがドナの前で泣くのはこれが2度目だ。慌てふためいた様子のドナは、体を起き上がらせると涙を肉球で拭い、必死にあやしてきた。 「シル、泣かないで。そんなに発情期って大変なんだ? 大丈夫だよ、1週間くらいだから。初めてだから戸惑ってるだけだし、またすぐ落ち着くからね」 「違う、全部違う」  今泣いているのは、ドナが番いにしてくれないからだ。シルヴィオはドナに抱きつき、その白い毛皮に顔を埋めた。 「今日は番いにしてくれなくていい、でもどうしてもドナとしたい。こんなにしたいのに、ドナが好きなのに、ドナは抱いてくれないから、俺ずっと、ヴィンツのことしか考えられなくなってる。あいつに抱かれたことしか思い出せなくなるの、嫌だ」  自身で慰めようとしても、オメガになってしまった身体はアルファを求める。そしてシルヴィオが抱かれたことがあるのは過去にも1人、あの元親友だけ。あの男しか知らないから、あの男のことしか考えられなくなる。  シルヴィオのその言葉に、宥めるために背中を撫でていたドナの手が不自然に止まった。

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