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第3話 side:凪
「おし!」
2年のクラス割が張り出された掲示板の前で、俺は小さく呟くと握りこぶしを胸の前で作った。これで1歩あいつに近づける。
俺、朝比奈凪 は橘未優 にずっと片想いをしていた。
入学式であいつを見つけたとき、俺にはすぐに分かった。
彼があのときのみーちゃんだって。
5才の俺の一目惚れ。
小さくて肩まで伸びた髪と、色白で長いまつげに大きな瞳が印象的な子ども。
桜の木の下でしゃがんで泣いているのを見つけたとき、絵本で読んだ桜の妖精かと思った。
それから俺は桜が葉桜に変わるまで通い続けた。
その間にみーちゃんに会えたのはたったの2回だけ。
最後に会えた日、別れ際にした忘れもしない小さな指での『指切りげんまん』
それが紛れもない俺の初恋だった。
この、聖高峰学園の入学式で見つけたあいつがみーちゃんだと分かった時の衝撃は凄かった。
てっきり女の子だと思っていたから。
自然とクラスは違うのにみーちゃんの姿を探している俺がいた。
恋、といつしか認めるしかないほど俺の中にはみーちゃんがいた。
男が男を好きになるのは普通じゃない。
それでも思いは止まらなかった。
だから近づく事が出来ずに遠くから暇を見つけては見つめていた。
なにより、俺にみーちゃんは気が付いていなかった。
「おい、なにぼーっとしてんだ」
自分の思いにふけっていた俺の肩にぶつかってきたのは同じサッカー部の関根伸吾 だった。
ポジションがFW(フォワード)の俺とMF(ミッドフィルダー)の関根。
自然とコンビを組んで練習していた。
「なにすんだ、関根」
「これから卒業までの2年よろしくな」
「まじか……授業の時間までお前と同じ時間を過ごすのか……」
「それは、俺の台詞だ。ほらクラスに行くぞ」
湧き起こるドキドキと緊張の中、3組までの道のりを歩いた。
ここで1年間をみーちゃんと過ごすのか。
1人、1人とクラスメイトたちが入って来るたびに、胸はドキドキと音を立てたが、いつまで経ってもみーちゃんの姿がクラスに現れる事はなかった。
担任の大竹がクラス役員を決める時間になっても保健室から戻ることはなかった。
「クラス役員を決めるぞー」
大竹は黒板に役員を書き出していった。
「おっし、どうやって決めるかな~。どうするお前ら?」
「多数決ー」
「あみだくじ-」
「くじ引き-」
「お、くじ引きなら公平だな。それでいこう」
それぞれが声を上げる中でさっさと大竹はくじ引きを選び、まるで最初からその案が出るのを待っていたかのように紙片を配りはじめた。
「自分の名前を書けよー。書いたかー?後ろから集めろ~。回収するぞ」
集めた名前を書いた紙片を箱に入れて、最後に教室にいないみーちゃんの名前を入れると箱を振り始めた。
「じゃ、これで決めていくからなー」
そんな時間も俺の意識はみーちゃんを案じて上の空だった。
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