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第4話 side:未優
「奈々子先生~、連れてきました~」
「あら、森末くんいつもお疲れ様、橘くん今日はどう?」
机で事務仕事をしていた町田奈々子(まちだななこ)女史は僕に向き合ってくれた。
「まず、胸の音聞かせてくれる?」
「はい」
僕は素直に奈々子先生の指示に従った。
横にある丸椅子に座って、素直にブレザーの前を開けた。
医師の免許を持つ先生は聴診器を取り出して自分の耳につけた。
「うーん、ちょっと喘鳴がするわね。吸引はした?」
「しました」
「担任の先生には連絡してあげるからちょっと横になって行きなさい」
「ほら、未優、無理しないで休みなよ。今日は始業式とホームルームしかないんだし」
「……うん、でも、出来れば新学期の1日目は参加したい……」
「うーん、気持ちは分かるけど、無理をして本格的な発作が出たらどうしようも出来ないだろ?」
「うん、真紀、そうだよね~」
「もしもし、町田です。はい、……えっと、橘くんクラスは何組だった?」
「あっ、3組です」
「了解、2年3組の橘くんですが喘息の前兆が出ていますので保健室で休ませますね。担任の先生によろしくお伝え下さい。様子を見てクラスに戻れるようなら戻ってもらいます。はい、では、よろしくお願いします」
僕自身が教室に行きたいような、行きたくないような。感情を持っているのを奈々子先生は感じ取ったのか僕が納得するよりも早く、職員室への連絡を入れてしまった。
「よし、橘くんはちょっと横になろうか?森末くんは戻ってもらっても良いわよ。先生に任せてね」
「はい、よろしくお願いします。また後でくるよ未優~」
そういうと真紀は教室へと戻って行った。
「で、どうだった?橘くん。クラス発表が原因でしょ?その発作。もしかして同じクラスだったりして。うふ」
真紀を見送った僕は全部を知られている奈々子先生の言葉に真っ赤になった。
「あら、図星だった?」
「先生、楽しんでるでしょ?」
「もちろん、楽しいに決まってるじゃない。人の恋バナほど楽しい事ないじゃない」
「……はぁ~、僕には切羽詰まった状態なのに」
じと目で、僕は奈々子先生を見つめた。
この人は本当に鋭すぎて、誰にも言うつもりもなかった朝比奈への思いも巧みな誘導尋問で全てを吐き出さされていた。
でも、そのおかげで気持ち的に救われていることも事実だった。
「あまりにもしんどいようなら、寮の部屋に戻ってる?」
「いえ、ここで休ませてもらいます」
僕の両親はアメリカにいる。
日本から離れたくなかった僕は、受験して寮に入る事で心配性でどこまでも僕を優先する母親から独立をしたかった。
両親を納得させる為に病院も幅広く経営するこの聖高峰高校を受験して寮に入った。
この高校は寮生になるのも、自宅通学をするのも自由な高校だ。
現在、全校の2/3は寮で生活をしている。
その中で朝比奈は数少ない自宅通学者だった。
「でも、まぁ、あんまり苦しいならすぐにここにいらっしゃいな。ここはいつでも逃げ場所にしてくれて良いからね」
「ありがとうございます」
こんな風に接してくれるからここは僕にとって居心地が良い。
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