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第6話 狐の災難6

昨日はあまりよく眠れなかった。初めての出張で、しかも木ノ下さんと一緒というのが落ち着かない要因だ。 早々と仕事を切り上げ、新幹線の駅へ向かう。 東京にある本社内で研修が行われるので、その間は近くのビジネスホテルに宿泊する。 夕方という時間帯もあり、新幹線内はビジネスマンでごった返していた。 恥ずかしながら、生まれてこの方新幹線に乗ったことがない。修学旅行は狐バレ防止のため行くことが出来なかった。だから遠出の旅行は、例えそれが仕事だとしても、とてもワクワクする。 座席の乗り心地も、普通電車とは比べ物にならないくらいふかふかだ。静かで速いってどういう構造してるんだろうか。 「仕事するから、お前は好きにしてていいぞ」 「はい……」 席に座った途端、木ノ下さんはノートパソコンを広げ、仕事を始めてしまった。来週に使う会議資料だろうか、真剣にタイピングをしている。 木ノ下さんの隣は、落ち着いて寝るような気持ちにはなれない。 「あの、ちょっと車内を見てきます」 「いいけど。今更新幹線なんて興味もないだろうに」 「いえ、俺……新幹線に乗るのが生まれて初めてなんで、興味津々です」 木ノ下さんは、目を見開いて驚いた後に、ニコッと笑った。 「狛崎は本当に天然記念物級だな」 「天然、記念物……?」 「深く考えんな。心ゆくまで探検してこい。迷子になるなよ」 自分から見たら、木ノ下さんが天然記念物である。カッコよくて、仕事もできて、皆にモテて、非の打ち所がない。そんな人は俺の知る限りどこにも存在しない。 新幹線内を探索することにして、2号車を出た。 探索しても、ただただ真っ直ぐ歩くだけで、中身は変わり映えしない。トイレや洗面台が同じように続く光景が広がっていた。共通するのは、くたびれたビジネスマンがいるということだろうか。 新幹線の端から端まで歩いたら、疲れがどっと出てきたため、探索を終了することにする。 (ちょっと気分が悪いかもしれない) 頭痛と共に胃に不快を感じる。 乗り物酔いかもしれない。車内販売のお姉さんからジュースを購入し、デッキで飲もうと移動した。 目眩と耳鳴りが酷い。 クラクラと足元が覚束ず、体勢を崩した時だった。 「おいっ、大丈夫か……?」 急に出てきた影に支えられる。それが木ノ下さんだということに気付いたのは、トンネルに入った時だった。 暗闇に入ると、窓が鏡のように内部の状況を写し出してくれる。 木ノ下さんと共に、はっきり、くっきりと窓越しに狐の耳が映っているのも見えた。 絶句した。 言葉にならない悲鳴が出た気がする。

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