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第7話 狐の災難7
「あ……いや、あの、ちょっ、ちょっと待ってくだ、さいっ」
パニックになった俺は、支えてくれた木ノ下さんを思いっきり突き飛ばした。
弾かれた木ノ下さんは、倒れはしなかったが、反対側の壁へ追突する。
(み、耳が……出てる……ヤバい、ヤバい……どうしたらいい……?)
「痛ってえ……助けようとした人を突き飛ばすなんて」
「こっち見ないでくださいっ」
「具合悪いのか?」
「いいから、こっち見ないで……お願い」
耳を隠して、貝のように丸まってしゃがみ込んだ。尻尾も出てるかもしれない。ヤバい。人間に知られたら、俺たちは生きていけない。
刺さるような木ノ下さんの視線を背中に感じる。逃げ場所が無いことは分かり切っていた。いっそのこと扉が開けばいいのにと、頭部をグリグリ押し付けるも、奇跡は起こらない。
新幹線は物凄いスピードで走行中だ。
「狛崎。そこまで扉にのめり込まなくてもいいんじゃないか。何をしても外には出られないぞ」
「来ないで!!だから、来ないでください」
「近づかないから、落ち着け」
間もなく、〇〇駅に到着致します』
頭上から軽快な音楽と共に到着のアナウンスが流れた。新幹線はもうすぐ駅に停まるらしい。
「ほら、こっち来い。そこにいると邪魔だ」
「え、どこ行くの……?来ないでって言いましたよね!!」
「俺が嫌なら目つぶってろ」
ひょいと担がれて、半車両分移動した後、座席へ放り出される。すぐさま頭を触って確認した。
耳……引っ込んでる。よかった。尻尾が主張していたお尻の膨らみも無くなっている。とりあえず人間に戻ったみたいだ。
安堵から、よく分からない汗が引いていく。背中が汗でびっしょりだ。
「次の駅で降りるから、準備しろ」
「はい」
「乗り物が苦手なら言えばいいのに。困ったな」
「すみません……」
ひたすら謝って半分泣きながら、降車の準備をする。理由を聞かれても答えることができない。
「手が止まってる」
「ふぁい……すみましぇん……」
最後の方には、鼻水も涙も止まらなくなって、何が何だか分からないまま、木ノ下さんに手を引かれて新幹線を降りた。
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