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第13話狐にしか分からない3

嵐が去った後、俺はへなへなと椅子に腰を下ろす。事務の丸山さんが心配そうに寄ってきた。 「狛崎君、大丈夫?野々田さん、いっつもああだから、気にしなくていいよ。鬱憤が貯まると、営業三部にケチつけてくんの。本当に嫌な感じよね。狛崎君は悪く無いからね」 「だ、大丈夫です…………びっくりしただけです。ミスしたのは俺なんで、怒られてもしょうがないですから」  「うんうん。怖かったね。後は木ノ下さんが対処すれば大丈夫でしょう」     ああ。どうして俺の周りはいい人ばかりなんだろう。野々田さんに罵られて、ミスして営業に向いていないと言われても、フォローしてくれる人がいる。  滲んだ涙を乾かすために、上を向く。こんなことで泣いてはいけない。 木ノ下さんは席へ戻ってきても、俺に注意するどころか何も言わずに作業を再開した。 もしかして遂に見放されたかと、不安になる。 「木ノ下さん、先ほどはすみませんでした。あの、俺……」 「野々田はただのつっかかりだから、気にしなくていい。時々発作みたいに、揚げ足を取りにくるんだ」 それでもこっちを見てくれない。作業をしながらの受け答えは、傷心の俺にはキツい。 「でも、ミスしたのは事実なんで、先方に謝ります」 「あのなあ……」 やっとこちらを見てくれた木ノ下さんは、俺の額に人差し指を突き刺した。 「お前は、注意して注文受けたんだろう?」 「……はい」 「注意してやって間違えたなら、それがお前の限界なんだ。それを叱っても意味が無い。ましてや当てつけのように怒鳴り散らすとは本末転倒だ。俺が言えることは、今のままでいい。落ち込む暇があるなら、新商品のマニュアルを読め」 「…………は、い」 「ったく、野々田だって、言いたいだけのストレスマンだし、事故にあったようなもんだろう。俺から見ても、狛崎は十分頑張ってるから、野々田のことは忘れろ。以上だ」 野々田さんを軽くあしらえるほど、社歴も長くないし、経験も足りない。思い出しただけで怖くて震えてしまう。 でも『狛崎は十分頑張ってる』と木ノ下さんは、確かに言った。絶対に言った。嬉しくてニヤけてしまいそうだ。 俺は木ノ下さんのためなら、どんな仕事でも頑張れる。 (頑張ってるって、木ノ下さんが初めて認めてくれた……) 「あ、そうだ。病院には行ったか?あれから顔色は悪くないようだが、ちゃんと行けよ」 「分かってます。来週、行こうかなって思ってます……」 はてさて、病院のことはどうしたらいいのか、考えあぐねつつも、新商品のマニュアルに目を通す。今度は頭にすんなりと入ってくるような気がした。

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