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第18話狐にしか分からない8
木ノ下さんは2日後に無事退院して自宅療養へ入った。本人は早く復帰したいらしく、様子を伺うメールがしょっちゅう飛んでくる。
そして会社では、不思議なことが起こった。木ノ下さんが抜けた穴を、野々田さんが率先して埋めてくれたのだ。俺に対しての冷たい態度も次第に緩和され、A金属に関する情報も教えてくれるようになった。
今日は仕事終わりに木ノ下さん宅へ寄るよう部長から言付かっている。一人暮らしの木ノ下さんの為に買った食料を携え、覚えたてのマンションを目指した。
「こんばんは。部長からの書類です」
インターホンを押すと、間もなくオートロックの鍵が開けられる。ここへ来るのは三度目だ。
「ありがと。お陰様で、ゆっくり休めたよ」
「来週から復帰ですね。今度はサポート体制がしっかりしてます」
「野々田だろう。あいつは昔から俺をライバル視して、何かあると突っかかってくるんだ。俺が倒れて納得出来たんだろうよ。とにかく性根の悪い奴だ」
「木ノ下さんがいない分、野々田さんには本当に助けられてます」
「俺は成長した狛崎に期待してる」
「それは、よく分からないですけど……」
実際に、いつも助けてくれる木ノ下さんが急に居なくなり、どうにもならない気持ちを無理矢理奮い立たせて頑張った。そしたら、何とかなったのである。仕事は滞りなく流れ始めた。周りから『やればできる子』と褒められたりもした。
だが、『明るい社会人生活』になる訳が無く、俺の心は別のことに囚われていた。ずっと暗いままである。
(ひいっ……また増えてる……)
木ノ下さんの家には、狐関連のグッズが目立つように並んでいた。今日は新たにDVDと写真集を見つけてしまった。狐のぬいぐるみがソファを鎮座する光景を目にした時は、驚きで狐化してしまいそうになった。
絶対に正体を知られてはいけない。親友でも、恋人でも、憧れの人にも、だ。掟は守る。例え半分バレていても隠し通すのだ。
木ノ下さんは、俺の胸の内など微塵も知らず、お土産で買ってきた梨を器用に剥き始めた。
「狛崎、隣の部屋からタオル取ってきてくれないか」
「はい」
悩みを無かったことのように心から振り払い、タオルを取りに行く。
隣は寝室になっている。ベッドには寝ていた形跡があった。言われた通り、チェストからタオルを取り出す。
(…………なんか臭い)
変な匂いがすると思った矢先、足元に小さく動く檻を発見したのだ。
「!!!!!!!っっっっっ、う、ウサ、ギ……!!!!!」
人間ではなく、動物。しかも、ウサギなんて。そんなものが家にいるなんて聞いてない。
(ウサギ、どうしよ……あ、もう、よく分かんない……木ノ下さん、ウサギなんて飼ってるの……?一昨日来た時は居なかったのに)
「ちょ、こっち見んなよっ」
ウサギの登場で、自分が抱えるキャパシティを完全に超えた。
ガクガクと足が震える。他の動物には耐性が無い。ましてや小動物は捕食対象になるため、理性を堪えなければならない。人間女子のように『可愛い~』とはならない。
人間世界で暮らすために、小動物を見ても無でいられるよう訓練したにもかかわらずである。
「やっぱり。狛崎には尻尾があると思ったんだ」
パニックで立っていられず震えている俺に、木ノ下さんの声が降ってきた。
木ノ下さんは気付いていた。知っていて俺をハメたのである。
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