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第19話狐にしか分からない9

「俺は考えたんだ。もしかしたら、狛崎の尻尾は夢ではなく、初めからそうなんじゃないかって」 木ノ下さんは、膨れているズボンから俺の尻尾を取り出した。たぶん、耳も出ている。髪の色も濃い狐色になっているだろうから、どこから見ても俺は狐人間だろう。 「…………木、ノ下さん……」 「現実的じゃないのは分かってる。現にこうして目の前にいる以上、否定出来ない。一体お前は何者なんだ」 言い逃れはできないと悟った俺は、開き直るしかなかった。 (もう、どうにでもなれ……) 「…………見たまんまですよ。騙すなんて卑怯だ。何が目的ですか」 「本当に狐なのか……」 さわさわと尻尾を触られる。さっきから『尻尾』に固執しているように思えるのは、俺だけだろうか。 「…………な、なに……本物ですよ。俺はれっきとした狐人間です」 「……………………」  部屋の隅の方へ無言で追い詰められる。木ノ下さんの瞳に、いつものクールさとは違う熱いものを感じた。この人は一体何をしたいのだろうか。  座り込んだ俺の股の間から出た尻尾を、丁寧に、そして愛おしそうに、木ノ下さんは撫で始めた。言葉を発することなく、動作に集中している。 「あ、あの……」 「物凄い癒しのパワーを感じる。もっと触らせてくれ」 「え、あ、な……それは、だめ、です」 「どうしてだ。ずっとこれを求めていたんだ。これじゃあ尻尾が苦しそうだ。解放してやらないと」 「でも、だめ……です」 「俺がまた倒れたら、狛崎のせいだな」 「………………ええっ…………じゃ、じゃあ、ちょっとだけ…………なら」 (いつもの木ノ下さんじゃない。それに、人間に見つかった時の反応も想像していたのと全く違う。どうしたらいいのか余計に分からない)  スーツのスラックスから出された尻尾は、確かに根本が苦しそうであった。狐化するとスーツは窮屈なのだ。  慣れた手つきでベルトを外し、スラックスを脱がされた。木ノ下さんは何かに取り憑かれたように狐の感触を楽しんでいる。大きな手が俺を包み込んだ。 「………ん…………ぁ」  掌が足を伝い、ワイシャツの中を這う。いつの間にか、ワイシャツから肩が出てしまっていても、木ノ下さんはお構いなしに、夢中で俺の身体を触っていた。  ぎゅっと目を瞑り、気持ち悪いと思いながら耐えていた……筈が、途中から様子が違ってきたのである。  実は、尻尾の付け根は性感帯である。詳しくは知らないが、付け根には沢山の神経が通っていて、気持ちが良いところらしい。マッサージをすると、リラックスできる。  そこを木ノ下さんは優しく親指で押し始めたのだ。尻尾は素直にピクンと反応する。  目の前の変態じみた上司は、いくら鼻息が荒くても、俺には憧れの人で、それは変わらない。 (どうしよ……もっと触られたいかも) モジモジし始めた俺を、木ノ下さんはひょいとベッドへ転がした。 「狛崎……申し訳ない。変な気持ちになってきた」 「え……」 横向きに後ろから抱き抱えるように、包み込まれる。 「お前はあったかいな。いい匂いがする」 「け、獣臭くないですか?」 「全然。お日さまの匂いだぞ。嫌なら止めるよ」 「…………嫌じゃないです。俺で役に立つなら……」  どうやって俺を騙すか考えに考えたのだろう。ウサギ作戦が失敗に終わっても、別の方法で近いうちに正体を暴かれることになっていただろう。  ウサギまで使って、俺の尻尾を見たかった木ノ下さんに完敗だった。  色んな意味で、完全に向こうの作戦勝ちである。

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