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かつては狭霧は前戯というものを施されずにのしかかられていた。
自分の欲望を貫くことしか頭になかった楓から問答無用に猛然と。
そのため昨日の楓の振舞には戸惑いを隠しきれなかったが、今日の彼にも動揺と嬌声を禁じ得なかった……。
「そんなに喘ぐと外に聞こえる」
耳元で楓が囁く。
苦しげに唇を噛んでいた狭霧は目尻に涙を滲ませ、恐る恐る口を開いた。
「窓……しめ、て……ッ」
「別にいいけど……今離れていいのか?」
「あッ……!」
ひくつく肉襞の中央を貫通し、狭苦しい内部を弄繰り回していた中指に強めに擦り上げられて狭霧は悶えた。
「ああ、また出てきた」
ベッドの上、楓は狭霧の背中に自分の正面を密着させて座っていた。
無理やり開かれて剥き出しになっている白い両足の狭間に手を差し込み、淫らな動きを繰り広げ、濃厚な果汁にも似た濃い先走りを絶え間なく溢れさせていた。
楓は利き手で狭霧の根元を強めに握り、そこよりも下に伸ばした左の指先で滾る内部をゆっくり掻き回しながら、透き通るような色素の柔肌に口づけた。
「指挿れられるのは初めてだろ、感想は?」
答えるつもりはなかったし、絶頂を塞き止められてもどかしい閉塞感に苛まれ、狭霧は息をつく暇もない。
獲物の息の根を止める肉食獣を彷彿とさせる仕草で首筋に噛みつかれて、呼吸も絶え絶えとなり、今は窓の向こうに広がる白昼の青空も絶望的な色に見えた。
「んんん」
指がもう一本捻じ込まれた。
狭霧は一筋の涙を流した。
楓はそれを舐め取ると前屈みになって扇情的な彩りの唇にキスをした。
「ん、ぁ……っ」
甘く掠れた声音が捕食的な唇に貪られていく。
狭霧は焦らされている下肢の熱に朦朧となり、促されるままに舌を絡めた。
上顎も下顎も濡らすようなキスに無意識に答え、物欲しげに舌先を繋げた。
楓は自分のシャツを掴んでいた狭霧の手を取り、その優艶な形をした五指を彼自身の濡れた股間へと導いて欲求した。
「自分でしてみろ」
それは朦朧となっていた狭霧の意識を呼び覚ます、彼にとって信じ難い命令だった。
「ッ……」
楓に掴まされて、普段よりも力強く勃起した我が身を実感し、狭霧は火照っていた頬をさらに赤くさせた。
他者の前で自慰行為に及ぶなんて何よりもの屈辱に値する。
命じられて素直に従える内容じゃあなかった。
「そんなこと」
「じゃあずっとこのままでいいのか」
「……」
「別に難しくないだろ……それとも俺にしてほしいのかよ?」
依然として体内に埋められている二本の指が不揃いに動き、狭霧は、爪先を空中で艶めかしく強張らせた。
「じゃあ、そうしてやる」
渋々自分のモノに添えていた狭霧の手を覆い、楓がしごき始める。
塞き止めていた枷が外れ、先走りの溢れ出る加減が勢いを増し、限界にまで膨れ上がった欲望は出口を求めて肉の狭間を駆け巡った。
「ン……ッ」
狭霧は楓の腕の中で身悶えた。
首筋を這いずり回る貪欲な唇が全身を隈なく屠っているような、そんな危うい感覚に意識を巣食われた。
いつしか狭霧は楓の手が離れていったことにも気づかないで自分の右手でもって絶頂の一瞬に近づこうとしていた。
六年振りにのしかかれてるまでの時間がひどく長く感じられた。
執拗に続けられた前戯は、まるで歯形や爪痕以外の何かを残そうとしているかのようだった。
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