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第2話

 一夜明けて陽が最も高くなる頃、杞玖邸の一室にて。  榮江が長子、現藤氏の長である高良(たから)が率いる錚々たる面々に、杞玖は囲まれていた。日中でも戸を閉め切れば薄暗い。その薄暗さが気分を一層重く沈めた。 「それで、私が国を傾けるなどと、一体どのような密告があったのでしょう? 詳しくお聞かせ願えますか」  張り詰めた緊張感の中、杞玖の問いに口を開いたのは高良だった。暫く問答が続いたが、いつまでも同じやり取りの繰り返しで、半ば諦めの色が杞玖を覆う。 「杞玖殿。今回の件は、然るべき処分が下される。敏い貴方なら、この意味がお分かりでしょう?」  薄らと口角の上がった表情。やはり兄弟、昨日の天馬と同じ嘲笑を浮かべた顔。  この男、高良は前々からいけ好かない奴だった。顔立ちは兄弟の誰よりも榮江に似ていながら、性格は冷酷で実に非道なやり口を好む。その高良の宵闇のような漆黒の瞳が、杞玖は特に嫌いだった。何も映していないようで、全てを見透かす。そんな目だった。私の心の内も見透かしているのだろう、と杞玖は内心自嘲気味に思うのだった。  結局、反論しても反逆罪が覆ることはなく、杞玖も途中で言い返すことを放棄した。双方の埒のあかない問答は、杞玖が折れることで収束した。  高良は帰り際に、他の者には聞こえないよう杞玖へ耳打ちする。 「今晩、裏の戸を開けて待っていろ」  つくづく自分勝手な男だ。謀反の罪を負わされた杞玖の気持ちを汲まない、汲み取ろうともしない。高良は人を統率するのは誰よりも上手い。ただ、人の気持ちを察するなどという芸当ができるほど、彼は“人”ではない。その点で言えば次男の千尋の方が、まだ人間味があった。  囁いた高良の低い声が、耳の奥で響いては離れない。その低音に反射で震えてしまうほど身体に染み着いた高良の熱。理性に反した自身の反応に、杞玖は唯々嫌気が差すばかりであった。

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