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第6話
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シャルおばあさんが住む森は魔の森と呼ばれる森で、そこには街の人々に恐れられ魔王と名付けられた黒い狼が住んでいた。
魔の森は自然豊かにも関わらず、魔王を怖がって猟師以外は人間があまり立ち入らない森だが、なぜかおばあさんは恐れもなくピンピンしていて住居まで構えている。
ユリス自身もおばあさんによく家へ招待されたり押しかけたりしているが、どうしてか一度も森の動物達に襲われたことがない。
他の街人は追い払われるので未だにその理由はわからないが、こればっかりはありがたかった。多分美少年だからだろう。
おかげでお見舞いを言いつけられたユリスは、小柄な少年の身でありながらサクサクと森の中を歩いて行けるのだ。
無傷なユリスがしばらく危険なはずの森の中を歩いていると、一匹の銀色のトカゲが現れてユリスに話しかけてきた。
「よう赤ずきん、どこへ行くんだァ?」
銀トカゲはニンマリと笑みを浮かべて尾を振りながら、ユリスの行く手を阻んだ。
とおせんぼする彼から敵意は感じない。ユリスの足が止まって面倒臭そうに腕を組む。
「お見舞いだよ。この道をまっすぐいくと民家があるの。森に住んでるなら知ってるでしょ?」
「へぇ。よぅく知ってるぜ〜シャルの家だろ? あいつは面白い人間だ。なでるのがうまい」
「あれ、お前知り合いなの?」
「おうさ。俺はガド、ガドでいいぜェ」
「僕はユリスでいいよ」
予想外の邂逅。
自己紹介を皮切りに、ユリスは銀トカゲのガドと意外にも共通の友人がいたことで、彼の話で盛り上がってしまった。
ワドラーのいいつけを忘れて、おばあさんのあるある話に花を咲かせはじめてしまったのだ。
「──とか言ってね、この間もシャルの馬鹿は僕がジャムが好きって言ったら、大鍋いっぱいの野いちごジャムを作ったんだよ? おかげで僕んち、半年はジャムに困らないし。愚直なんだよね、ぽやぽやしてほんっとに危なっかしいよあのネズミ」
「わかるぜェ〜アイツは俺がちょっと尻尾を猟師にちぎられちまっただけで、慌てふためいて治療してから心配そうに世話を焼いてくれんだ。どーせ生えてくんのによォ」
「あ〜あるあるだよね。人の心配しないと死ぬんじゃない? ってくらいするもん。っていうかさ、トカゲの尻尾なんて猟師が欲しがるの?」
「ン? 俺は毒持ってんだァ。干してすり潰せば薬になんぜ」
「へぇ〜」
道端にあった大きめの石に腰掛けて、二人は和気あいあいと会話を楽しむ。
意外と話せるガドとの井戸端会議で、ユリスの頭にはお見舞いに行く途中だということはすっかりすっぱぬけていた。
すると突然──どこからかパァンッ! と破裂音が聞こえて、ガドが座る石から火花が散った。
攻撃されたガドは「おっと、時間稼ぎの限界だァ」とおどけて森の奥へ消えてしまう。時間稼ぎとはなんのことだろうか。そもそもどこから銃弾が来たんだ。
目まぐるしく変わった展開にユリスは何事かと混乱してぽかんとしたが、その犯人は見知った凶悪顔で、すぐに茂みの中からユリスの目の前に飛び出してきた。
「ユリスぅッ! 森に行く時はこの俺を連れて行けって言ってんだろうがッ! 森にゃ危ねェ生き物がわんさかいんだぞッ! 俺ならどこまでだって傷一つおわせねェで守るっていつもいってンだろッ?」
「うん。今目の前に野盗並の目つきの危ない男がいるから、撃ち殺してくれない? 早急に」
「はッ? どこだよオラァこの街一番の腕利き猟師、リューオ様が秒でお陀仏させてやらァッ!」
「鏡見たらすぐみつかるよこのスットコドッコイ」
半目のまま冷めた声で淡々と言い捨てるユリスの遠まわしな〝テメェだよこのファッキン蛮族〟に気づかず、ガサガサと野盗を探して茂みを漁る少しおつむが弱い男。
挨拶より先に引き金を引いた彼は、金平糖のように尖った金髪と三白眼で知られる自称他称共に街一番の猟師であり、そして非常に残念なことだがユリスの恋人でもあるリューオだった。
重ねるが、非常に残念なことにだ。リューオと恋仲になったのは未だユリス史上最大の謎である。迷宮入りしてから久しい難事件だ。……まぁ、投げ出す気にならない難事件だが。
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