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第8話

「……えっ!?」 「なん、だったん、だ……!?」  しっかり閉じた木目の扉の前で数秒顔を見合わせていた二人だが、すぐにハッとして状況を理解するために動き出した。  そうだ、こんな展開あるわけない。 「い、今のあれだよね、幻覚とかでしょ!? だってどこの世界に自宅で狼と同衾する死に急ぎがいるわけ!? 白昼夢に決まってるじゃない意味わかんないし! 意味わかんないしっ!」 「だっだよなァそうだよなァ!? あの距離感ならうっかりで頚動脈ごちそうさま案件間違いねぇもんよォッ! 夢だわマジで夢! もう一回開けたらシャルのやつ何事もなかったかのように昼寝でもしてんだぜったく仕方ねぇ野郎だッ! うんッ!」 「そうだよほんとあののんびりネズミ絶対許さないんだからッ!」  あはははは! とリューオと共に乾いた笑いをかわしながら、くるくると混乱している頭をどうにかこうにか押さえつけて、ゴクリと口内に溜まった唾を飲み込む。  深く深呼吸をして、ユリスはもう一度扉に手をかけてそっと開いた。  そっとなのは夢でありますようにという祈りを込めているわけだが、はたして中のあばあさんにそれが届いているのかはわからない。  ガチャ、と軽い音をたてて回ったノブと、なんら変わりなく開いた扉で、恐る恐る二人は中を覗き込む。  そこには膨らんだベッドと黒い頭が一つ分だけ見えた。  シャルおばあさんは黒髪だ。ひとつということはやはりさっきのは夢だったのだろう。 「大丈夫そうだね……寝てるんじゃない……?」 「やっぱ夢かァ……! うっし、さっさと様子見てこれ届けようぜッ」  ユリスはリューオと共に胸をなでおろし、妙な緊張感を払拭して安心して家の中に入った。  ふう、家の中もなんらかわりはない。  いつもどおりお菓子の甘い匂いが染み付いた木の香り。  男の一人暮らしにしては綺麗で随所に工夫の見られるマメな内装。  打って変わって平穏を充満させた空気にもう一切の疑いもない二人は、しっかりとした足取りで木のベッドで深く毛布をかぶるシャルおばあさんに近寄りながら、声をかける。 「シャル、様子が変だって聞いたんだけど具合はど……、……」 「? どうしたんだよユリス。おいシャル、テメェ……、……」  ベッドに眠るおばあさんを覗き込むと同時にユリスが黙り込む。  それに続いておばあさんを覗き込んだリューオが、同じく黙り込んだ。  静まり返る室内。  心なしか冷たい。  そんな閉口しつつ真顔で静観する二人を尻目に、じとっと見つめられているおばあさんは居心地が悪いようにもそりと動いて、ひきつった笑みを浮かべる。 「──お、俺がシャルだ。か、完全健康体だぜ。さっさと帰りやがれ人間どもめ……?」 「「チェンジ」」 「な!?」  真顔になったユリスとリューオが口を揃えて異を唱えると、記憶の中のおばあさんとは髪色以外似ても似つかない……というかまんま狼だろうと言いたくなるおばあさんもどきは、ショックを受けビクッと体を跳ねさせた。  ああ、今ので髪にあわせてぺたんと倒れていた耳がでてきたぞ。  狼じゃないかコノヤロウ。  妙にイケメンでドストライクなご面相だが、友人のベッドで彼のフリをしているのは頂けない。百歩譲ってそうしたとしてももうちょっと誤魔化しの効く変装をしてほしかった。  言いたいことがありすぎて震えるユリス達にジト目で睨まれて、モロバレの魔王はなぜチェンジされるのかてんでわからないといったふうに目を丸くする。  ユリスは今日二度目の鏡を見ろを、切実に叫びたくなった。 「なんでだよ俺がシャルだっつってんだろッ!?」 「耳が見えてるのおおきな耳がッ! 予想外にイケメンだからってごまかされないからね!?」 「おいまてユリス狼がイケメンだから最初黙ってたのかァ!?」 「耳っ!? あっ! み、耳はあれだ、赤ずきんの声がよく聞こえるために決まってんだろっ? お前の可愛い声を一言も聞き漏らしたくねえ、とかだぜッ!」 「許す」 「オォォォイッ!? 許すなよテメェ人の恋人コマしてんじゃねェクソ犬っころの魔王がッ!」 「あぁんッ? 赤ずきんが許すっつってんだから黙って従ってろよ三流猟師ッ!」 「おうおうおうその手にある鋭い爪が隠しきれてねェんだよブチ殺すぞ毛玉野郎が獣くせぇんだよッ!」 「ハッ! この手がこうなのはお前のような身の程知らずの死にたがりを八つ裂きにするためだ。ククク…………表出ろやお前の生皮と血で赤ずきん作ってやるぜッッ!!」 「上等だゴラァァァァアアァッ!!

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