2 / 52

2.至って健全な捕食行為

〈五皿目後 前アトリエブログ掲載小話・いつの間にやら吸血にハマってるシャルさんの健全なお強請り〉  ※ユリスとリューオは付き合う前  狼型吸血鬼であるアゼルが俺の血を吸う頻度は昔と違い落ち着いてきたので、概ね欲しがられた時に不定期に、だ。  まぁ始めは俺を殺さないで城に引き止める理由としてだったので、全くしなくなっても問題ないといえば問題ない。  ──問題ないんだが、吸われ慣れた俺は自主的に進言する時もあるのだ。 「ちょっと血を吸われたいんだが……毒が回らない程度に頼んでもいいか? エロい意味じゃなくだぞ」  不意にじっと見つめてそう言うと、アゼルはカッと赤くなってぽかんと口を開ける。  しばし赤面したままパクパクと開いた口を微かに開閉させていたが、ややあって赤みを振り払うようにふぅと息を吐いた。  そして長い足を組み替えて、小さく唸る。 「ぁ、あん、な? 今何してるかわかってんのかよ」 「リューオとユリスと俺たちでチェス大会だな。初戦敗退の俺とシードのアゼルは丁度暇じゃないか」 「そ……ッ! そこまでわかってなんでそれ今ここで言ったんだよエロシャルっ」  窓際の二人がけのテーブルで白熱しているリューオVSユリスを見ながら答えると、アゼルは恨みがましく二人を睨んだ。ちなみにチェスと言う名のオセロである。  ティータイム用のソファーに隣同士腰掛け勝負が決するのを待っているんだが、ふとそう言えばと気がついたというか。  なんかこう、吸血された時のじわじわと血が抜けていく感覚。  過ぎればまずいのだがアゼルだから安心感があるし、ムラムラしないように気をつければ俺はあれが好きだ。  献血が好きな人とかいるだろう?  そういう感じだと思う。慣れさせられたからというのもある。  そう説明すると、アゼルは物凄く悩ましい顔をしてしばらく腕を組んだ後、ポスンと倒れて俺の肩に頭を乗せうんうん悩みだす。  アゼル曰く、催淫毒は好きで流し込んでるわけではなくて、牙を突き刺したら入るらしい。  そして血を吸うとその分を補填するようにどんどん入ってしまう。  かと言って刺してすぐ抜くと対して血も出ないし、唾液でそのうち傷が塞がるそうだ。  舐めとけば治るを地でやれる体質と言うわけだな。 「えろい意味じゃない吸血って、吸血がもうえろいじゃねえか。無理だろ、いろいろ無理だろ。俺の理性とか俺の理性とか俺の理性とか」  ぶつぶつと呟きながらアゼルはむむむと眉間にシワを寄せる。  腕を組んだまま難しい顔をしているが、斜めになって俺の肩に頭を乗せているのでどこか間抜けだ。  人前であることを気にしているみたいだが、勝負は未だ中盤で負けず嫌いが二人、文句を言い合いながらやっているから大丈夫な気がする。  それになにより、当たり前のことをアゼルは忘れているようだ。  ポスン、と首を傾げて肩に乗ったアゼルの頭に自分の頭を乗せる。 「アゼル、吸血は別にエロいことじゃないぞ。ただの捕食行為だ」 「…………」  俺がそもそも前提がよくないことをさらりと告げると、アゼルはビシッと固まって黙り込んでしまった。  いやだってだな、アゼルの眷属のカプバットだって黒人狼だって吸血好きだから、狩りに出てちゅうちゅうしている。日本人がお米好きなのと同じだろう。  それに俺はヤマアラシにも血を吸われたことがあるからな。  吸血がエロいならば、俺はヤマアラシに陵辱されたことになるのだろうか。誰向けのエロなんだ?  そういうわけで、俺は毒にやられなければ問題ないと思うのだ。  それをそのままアゼルに話す。 「健全な意味で俺を捕食してくれ」 「……そうだな。健全だな、うん。健全だ。だから問題ない」  アゼルは自分に言い聞かせるように頷いた。「不健全なのは俺の頭」とか呟いている。  なんでそうなった? そんなことはないが、そうも悩まれるとは思ってなかったぞ。

ともだちにシェアしよう!