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第3話
では早速、と俺が着ていた白いシャツの襟元をはだけさせようとすると、「ちょっとまて」と掴まれた。
「なんだ?」
「首筋はエロいだろうが……」
「? 何を言っているのかわからない」
「馬鹿野郎、首筋は単体でエロいだろ」
そんな当たり前のように真剣な表情で言い切られても、まったくその理論はわからないのだが……首筋はエロいのか。
俺は?を飛ばしながらアゼルを見つめるが、アゼルはさっさと俺のはだけた襟元をただしてきた。
だが首筋がエロかったらアゼルの魔王の服は基本的に首筋出てるじゃないか。大変だ、露出狂になってしまう。今日は珍しく全休なので私服を着ているが。
アクセサリーはジャラジャラだが、黒いシャツを軽く腕まくりして上等そうな生地のグレーのスキニーをはいたアゼル。
服の細かなデザインはやはり相違あるが、見た目は人間なので現代にいてもあまり違和感はなさそうだ。
アゼルは黒色が好きらしい。もともとの姿の毛皮が黒だから落ち着くそうだ。
閑話休題。
さて、首筋がだめならどこならいいんだろう。
「じゃあ肩か? 硬いぞ」
「はだける系はエロい」
「んん……腕か?」
「指よりエロさはマシだな」
アゼルのエロさジャッジは何基準なんだ。
指のほうが血は飲みにくいと思うが、そう言うと「指で俺が初めどれだけ弄ばれたかわかってねぇ……!」と熱弁された。どうやらエロさは指の方が上らしい。
とりあえず腕をまくってどうぞと差し出すと、アゼルはもろこしをかぶるような感じで俺の腕を持った。
うん、ちっともエロくない。気持ちは完全に献血だ。
俺は柑橘系の香りが心地いい紅茶を一口飲んで、カップを置く。
「どうした? 遠慮なくいってくれ。俺の腕は素材の味的に若干しょっぱかったぞ」
「いや、お前は桃の食いすぎで割と甘い……じゃねぇ。腕をこの持ち方、メシ感がすごい」
「捕食だからな」
元々俺は、お前のご飯だしな。
桃の食べすぎで甘いかどうかは置いておいて、確かに肉に齧り付くヤンチャ少年な感じがしなくもない。
そもそも人間は肉が好きな魔族にとっては食用だからな。俺の食卓に出たことはないが、そのへんは割り切っている。命とはめぐるものだ。
俺のいつもの吸血と違う……、と呟きながら、アゼルはそっと俺の腕を持ち上げ手首の少し下辺りにカプリと噛み付いた。
「ん……」
鋭い牙に皮膚を突き破られて中を流れる血液をすすられる、久しぶりの感覚。
すぐに引き抜かれた傷口からじゅわりと滲む血は、余すところなくアゼルの喉奥に落ちていく。俺はその度に体を僅かに震わせ、肺から息を絞り出した。
熱い舌が肌を這い傷口を舐めてはまた牙をやさしく突き立て、捕食というにはあまりに上品で丁寧だ。
それにしてもやっぱり首筋ほどは血が出ないな。指先よりは飲めると思うが。
気遣いつつも血を啜っていたアゼルもそう思ったのか、ジュル、ときつく傷口に吸い付かれた。
「あ……っ」
ビクッ、と体が跳ねる。
そっと片手を口元に当てて、呻き声を我慢した。これが献血とは違うところだ。
丹念に舌全体で舐められ、すぐに薄らと皮膚を再生させて薄皮一枚で塞がってしまう傷口。
そこにもう一度なるべく同じように突き刺される牙。薄皮はあっけなくプツリと穴をあけて再度飲み口となる。
そしてまたすぐに引き抜かれた牙。俺の押し殺した艶めく苦悶の声が手の中で吐息と共に吐き出される。
ううん、いつもより痛いな……毒の誤魔化しがないからか。
「はッ……く、ぅ」
乗り気じゃなかったくせに、アゼルは俺の腕を舐めたり吸ったり毒が入り過ぎないように気をつけつつ、熱心にちまちまと吸血していた。
そうされると徐々に指先が震えてくる。このなんていうか、今血の気失せてるな、という感じが割と好きなんだ。
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