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10.魔王版・海水浴のすゝめ(☆)

〈十二皿目以降 フォロワー様100人突破記念リクエスト・ダブルカップル+タローで海水浴〉  ※一応本編とは無関係扱いでございます  ──これは、ちょっと過激でちょっと騒がしいが概ね平和で愉快な魔界の、ある日の話である。  海水浴に行こう。  そう言い出したのは、夏の日差しの中陸軍にまじって仕事をこなしてきた、汗だくのリューオだった。 「くぅぅ夏だッ! 海だッ! テンション上がるぜェ〜〜ッ!」 「夏! 海! 海広いねぇ〜! がおがお海、てんしょん、あがるっ!」 「わかってんじゃねェかタロー! 後でぶん投げてやるよ!」  と言うことで思い立ったらすぐ行動。  善は急げ、は違うかもしれないが即断即決のリューオに誘われ、よく晴れた今日はいつものメンツで海水浴にやってきた。  ちなみにいつものメンツとは、俺、アゼル、リューオ、ユリスに、二月ほど前に生まれた俺とアゼルの娘、タローを加えた五人だ。  ガドは個々で交流するタイプなので、共に集まると言えばこのメンツだろう。  ライゼンさんはお母さんなので裏方、基魔王の留守を守ってくれている。本当に頭が上がらない。  そしてタローを外へ連れてきたのは、これが初めてだ。  まだ心配だが幼い子供を置いて遊び呆けることはできないからな。  タローには世界の色んなモノを見て学んでほしい。  アゼルの背に乗って快適に海街スウェンマリナの海水浴場へやって来たリューオは、到着早々服を脱ぎ捨てタローを肩車しながら海へ飛び出して行った。  女児用の薄い黄色のワンピースタイプの水着を着たタローは、文句なしに可愛い。  炎のような色の水着を着て惜しげもなく鍛え上げた肉体を晒すリューオも女性魔族の視線を集めていたが、人間だと気がついている魔族にはスルーされている。  ちなみにアゼルの大宣言が成されたスウェンマリナでは、人間だからと言うだけで無害な人が攻撃されることはない。  うっかり俺と間違って殺してしまうと、死刑執行をするために、わざわざ王様が飛んでくるからだ。  生きていれば俺が止めるが……。  俺ごと執行されそうで自信はないな。霊体にならねば。 「ホント信じらんない! 海なんて何十年って見飽きてるんだけどっ! 僕の肌は敏感肌なんだから長時間太陽の下にいなきゃいけないなんて拷問だねッ!」 「でもゆんちゃん海きたねぇ〜!」 「ツンデレなんだよタロー俺の可愛い恋人は! ヘッヘッヘ。パーカーなんて邪道だが、ユリスが着たらなんでも可愛いかんなァ〜! 水着の醍醐味! 水着だからこその趣き!」 「誰がツンデレなの! お前達だけじゃあその辺のクラーケンにスナック感覚で食べられそうだから見張りに来てあげただけだよ! 勘違いしないでよね!」  プンプンと怒りながらもタロー達と同じく海辺まで行っているユリスに、リューオはデレデレと頬を緩ませ肩を抱こうとした。  その手は秒殺で叩き落され、リューオの肩の上のタローがきゃっきゃと楽しそうに笑っている。  ふふふ、タローもわかるか。  そうだ、二人はじゃれているのだ。その程度ならいつものイチャイチャだからな。  そのユリスは胸元にフリルがついた、ショートパンツスタイルの水着を着ている。  それがまた良く似合っていて、砂浜の男の視線を攫っていた。  なるほど、リューオはわざと恋人と口にして肩を抱こうとしたわけか。可愛い三人組だな。 「あんまり遠くに行くんじゃないぞー。安全最優先で大いに楽しんでくること、いいかー?」 「「はーい!」」 「脳みそ年齢タメ張ってんじゃないよまったくもうっ! シャルっ! 僕がいるからには海で溺れることだけはないと思って貰ってもいいんだからね! 守るとかじゃないよっ? お父さんの管轄内で事故とかありえないだけだからっ!」 「ユリスありがとうー! 海でのお前は一番頼りになるぞーっ」 「むぎゃッ! ば、ばぁかッ!」  バシンッ、と水面を自慢の尻尾で叩いたユリスがニヤニヤするリューオの腕を引いて沖の方へ連れて行く。  それを見送りながら、自分の隣下方に視線を滑らせ、そこにあった黒い頭をなでる。  パラソルの下に引いたレジャーシートに座る俺の隣に寝そべり、ちっとも動かないでただ寄り添っているアゼル。  そうなんだ。  アゼル、ちっとも海が好きじゃないらしい。

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