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6.現代版・本日のディナーは社畜さんです。①
〈現代パロディ エブリスタ・スター特典①〉
《簡易説明》
・大河 勝流
若き社畜。ド級のイエスマン。低賃金でよく働く労働者の鑑。
・アゼリディアス・ナイルゴウン
マフィアボス。権力で推しメンを呼び寄せた謎のバカだが、戦闘力ヤバめ。
・ライゼフォン・アマラード
副ボス。苦労人のお母さん。ボス敬愛者なので小言を言いつつ絶対服従。
俺の名前は大河 勝流。
今年で二十六歳の地味な男だ。
仲のいい人には勝流をもじってシャルと呼ばれることが多いが、そんな人にも最近はとんと縁がない。
理由は朴訥として人付き合いが下手くそなことと、毎日終電に乗って帰るこの社畜生活によるものだろう。
時間も気概もないものだから、両親は他界し祖母に育てられたがその祖母も今は亡く、家族も恋人も友人もいないまま一人で暮らしている。
それを不幸だとも思わないし、自分を悲観したことはない。
仮に全てを持って満ちていた人がいたとしても、気持ちが悲しんでいればその人の方がよっぽど辛いのだ。
時たま無性に寂しくなることもあるけれど……俺は俺なりに些細な幸せを探しては拾って、のんびりと生きていた。
──んだが。
ゴクリと唾を飲む。
俺は唇が鉛のように重く感じて、口を開くことに相当の労力がかかる気がしてならない。
それもこれも、目の前で高級な革張りのソファーに深く腰掛け、尊大に足を組んでいる男のせいだ。
向かい側に縮こまって座る俺を、軽く顎を上げ薄目で見つめるその人物。
艶めいた髪は夜闇を思わせる黒。
右側に髪を流しているせいで顕になっている左目は鋭オニキスのようだ。
その瞳に見つめられると威圧感がやまない。
引き締まった肢体にピタリと嵌っているダークスーツはひと目で上物だとわかる。
オーダーメイドと言う奴だろうか……スーツには詳しくないが、俺には手が出ない代物だ。
ハリウッドスターのような目鼻立ちのはっきりした、見るからに美形の男。
髪の色や顔立ちを見るにイタリアーノだろうか。しかしアジア系のようにも見え、不思議な雰囲気がある。
朝いつも通りに出社してから上司に詳しい事は説明されないまま、ただ〝今日から異動になったから〟とあれよあれよと追い立てられてやって来た高級マンションの一室。
そのリビングルームでありのまま説明してから取り敢えず挨拶をしたのだが……男に見つめられ始めてから、もう一時間は経過していると思う。
俺はそろそろ頭を抱えてそのままダンゴ虫のようにまるくなりたくなってきていた。
だめだ。日本人は沈黙に弱いんだ。
ガチャ
「失礼します」
そんな凍りつきそうな空間に、光が差し込んだ。
穏やかな声音で断りを入れてから部屋に入って来たのは、俺をここに案内してくれた夕焼け色の長髪を持つ麗人だ。
こちらもやはり仕立てのいいグレーのスーツを着ている、上流階級らしい人。
中性的な細面の男性だが仕草は上品で物腰も柔らかく、微笑みを浮かべて対応してくれた。
俺が名乗ると同じように返してくれた彼の名前は、ライゼフォン・アマラード。
ライゼンと呼ぶように言われた。
そういう名前の形態はあまり聞いたことが無くて国元はわからない。
日本人でないことは確かなんだが……。
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