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第22話
♢
ガドの運転で始まった、命の危険という意味でのドキドキドライブを終えて、俺はグロッキー。
完全にダウンしたので、しばらく後部座席で休んでから、昨日の部屋へ向かうことになった。
専用のガレージに止まったベンツの中で、俺はぐったりと脱力する。
引っ越し業者のいらないレベルに荷物を抑えた為、ガドが直接送迎に来たわけだが、結果はこれ。
むむむ、危うく天国へ送り出されるところだったぞ。三半規管が弱いんだ。
俺をダウンさせたガドはと言うと、グデグテの俺を眺めている。
ここに常備しているらしい持ち運べる小型クーラーボックスから、冷えた水のペットボトルを俺に渡してくれた。
優しいな。
しかし見ていてもいいが、俺はなにも面白くはないと思う。
「弱ぇなァ……。そんなんでマフィアのボス相手に、暮らせんのか? というかシャルゥ、お前マフィア怖がらねぇのな?」
「ん……?」
喉を潤してから額にペットボトルをあてていると、そんなことを言われた。
ぼんやりとしながらも、唐突な質問の答えを考えてみる。
(怖い、マフィア、んと……縄張りを荒らしたら殺されるとか、肩が当たったらバトルとか、日常的に敵対組織と銃撃戦とか、そんな感じか……?)
「ん、マフィアは怖いな」
「怖いのかァ……」
残念そうに肩を丸められた。
安心してほしい。
マフィアが怖いだけで、ガドは怖くない。
怖がられることを気にするなんて、ガドは表情に出ないだけで繊細な心の持ち主みたいだな。
「そうだな……マフィアに限らず、乱暴な人は怖い。自分の周りの人に迷惑をかけるなら、嫌だ。見てのとおりただの企業戦士な俺は、そういう荒事にはとんと縁がないんだ」
「へぇ」
「俺はどこにでもいる普通の男だからな」
うん、だいぶ気分が良くなった。
休みながら話しているとグロッキーから復活してきたので、ガドにありがとうと笑う。
だが、彼は悩ましそうに頷いて、不貞腐れてしまう。
「じゃあ、俺は怖いんだなァ」
「? 怖くない」
「? ……んんん?」
おおう、どうしてだ。
更に悩ましそうに首を傾げてしまったぞ。
思ったとおりに答えたのに余計に悩ませてしまって、俺も首を傾げた。
この話の先が見えなくなってくる。
こうなるとガドがなにを悩んでいるのか、わからないな。
「俺、マフィアなんだぜェ?」
「ご存知だ」
「じゃあ怖いの人じゃねェか?」
「でもマフィアとはいえ、ガドだからな……ガドは怖くないし、お前のマイペースな感じは、俺は好きだ。怖くない」
「? ……、……俺のことが好きなのか、お前」
「? まぁそうなるな」
イマイチ噛み合わない会話。
けれど俺が肯定すると、ガドは理解したようにニマッと笑みを浮かべ、機嫌よく抱きついてきた。
「イイぜィ? 俺はシャルが気に入ってるし、好きだしなァ。両想いじゃねェか。なら口付け でもしてやんよ。ファミリー以外にはしないけど、シャルはイイよう」
「そうか、俺のことが好きか。ありがとうな、両想いのガド。後、キスはしなくていいぞ」
「なんでィ。つまんねェの」
唇を尖らせるガドのニンマリとした笑みは、本気だったのかどうかわからない。
俺はよくわからないままに理解されてしまい、困った顔をするしかなかった。
(んんと……一件落着、か?)
頭上にクエスチョンマークを浮かべつつも、よしとする。
イタリア人っぽくはないが、イタリアンマフィアらしい彼にとって、キスくらいなら誰にでもするのかもしれないな。
だとすれば、このファミリーの構成員たちはスキンシップ過多が普通なのかもだ。
イタリア人はそこに女性がいるなら、口説かないと失礼だという人種だ。
女性じゃなくとも、多少距離感に影響するんだろう。
日本人である俺は困るが……アゼルと暮らすなら、コレに慣れていったほうが良さそうだ。
キスまでのスキンシップは特に感情的な意味がないと言い聞かせ、割り切る。
(……こういうアットホームなところが、マーカウィーファミリーを怖いと思えないところなんだ。マフィアなんだけどな……)
ガドに構われながら、俺はうーんと唸った。
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