24 / 52

第22話

 ♢  ガドの運転で始まった、命の危険という意味でのドキドキドライブを終えて、俺はグロッキー。  完全にダウンしたので、しばらく後部座席で休んでから、昨日の部屋へ向かうことになった。  専用のガレージに止まったベンツの中で、俺はぐったりと脱力する。  引っ越し業者のいらないレベルに荷物を抑えた為、ガドが直接送迎に来たわけだが、結果はこれ。  むむむ、危うく天国へ送り出されるところだったぞ。三半規管が弱いんだ。  俺をダウンさせたガドはと言うと、グデグテの俺を眺めている。  ここに常備しているらしい持ち運べる小型クーラーボックスから、冷えた水のペットボトルを俺に渡してくれた。  優しいな。  しかし見ていてもいいが、俺はなにも面白くはないと思う。 「弱ぇなァ……。そんなんでマフィアのボス相手に、暮らせんのか? というかシャルゥ、お前マフィア怖がらねぇのな?」 「ん……?」  喉を潤してから額にペットボトルをあてていると、そんなことを言われた。  ぼんやりとしながらも、唐突な質問の答えを考えてみる。 (怖い、マフィア、んと……縄張りを荒らしたら殺されるとか、肩が当たったらバトルとか、日常的に敵対組織と銃撃戦とか、そんな感じか……?) 「ん、マフィアは怖いな」 「怖いのかァ……」  残念そうに肩を丸められた。  安心してほしい。  マフィアが怖いだけで、ガドは怖くない。  怖がられることを気にするなんて、ガドは表情に出ないだけで繊細な心の持ち主みたいだな。 「そうだな……マフィアに限らず、乱暴な人は怖い。自分の周りの人に迷惑をかけるなら、嫌だ。見てのとおりただの企業戦士な俺は、そういう荒事にはとんと縁がないんだ」 「へぇ」 「俺はどこにでもいる普通の男だからな」  うん、だいぶ気分が良くなった。  休みながら話しているとグロッキーから復活してきたので、ガドにありがとうと笑う。  だが、彼は悩ましそうに頷いて、不貞腐れてしまう。 「じゃあ、俺は怖いんだなァ」 「? 怖くない」 「? ……んんん?」  おおう、どうしてだ。  更に悩ましそうに首を傾げてしまったぞ。  思ったとおりに答えたのに余計に悩ませてしまって、俺も首を傾げた。  この話の先が見えなくなってくる。  こうなるとガドがなにを悩んでいるのか、わからないな。 「俺、マフィアなんだぜェ?」 「ご存知だ」 「じゃあ怖いの人じゃねェか?」 「でもマフィアとはいえ、ガドだからな……ガドは怖くないし、お前のマイペースな感じは、俺は好きだ。怖くない」 「? ……、……俺のことが好きなのか、お前」 「? まぁそうなるな」  イマイチ噛み合わない会話。  けれど俺が肯定すると、ガドは理解したようにニマッと笑みを浮かべ、機嫌よく抱きついてきた。 「イイぜィ? 俺はシャルが気に入ってるし、好きだしなァ。両想いじゃねェか。なら口付け(バーチョ)でもしてやんよ。ファミリー以外にはしないけど、シャルはイイよう」 「そうか、俺のことが好きか。ありがとうな、両想いのガド。後、キスはしなくていいぞ」 「なんでィ。つまんねェの」  唇を尖らせるガドのニンマリとした笑みは、本気だったのかどうかわからない。  俺はよくわからないままに理解されてしまい、困った顔をするしかなかった。 (んんと……一件落着、か?)  頭上にクエスチョンマークを浮かべつつも、よしとする。  イタリア人っぽくはないが、イタリアンマフィアらしい彼にとって、キスくらいなら誰にでもするのかもしれないな。  だとすれば、このファミリーの構成員たちはスキンシップ過多が普通なのかもだ。  イタリア人はそこに女性がいるなら、口説かないと失礼だという人種だ。  女性じゃなくとも、多少距離感に影響するんだろう。  日本人である俺は困るが……アゼルと暮らすなら、コレに慣れていったほうが良さそうだ。  キスまでのスキンシップは特に感情的な意味がないと言い聞かせ、割り切る。 (……こういうアットホームなところが、マーカウィーファミリーを怖いと思えないところなんだ。マフィアなんだけどな……)  ガドに構われながら、俺はうーんと唸った。

ともだちにシェアしよう!