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第23話
グロッキーから復活できたので、ゴロゴロとキャリーを引き、ようやく今日から我が家となる部屋の前にやってきた。
いやはや。知ってはいたが、セキュリティが凄いんだ。
マンションのエントランスは二重オートロックな上、二十四時間交代で見張りの人が管理人室のようなところに常駐している。
それにエレベーターも、鍵をかざさなければ動かない。
その鍵自体もピッキングができない、最新のものだ。
そしてマンション全ての使用ガラスが強化ガラスなのだから、驚いた。
防犯カメラも全フロア完備。
セキュリティは万全である。
なにが一番恐ろしいのかと言うと、その最上階のまるごとワンフロアが、俺がアゼルと暮らす部屋だと言うことだな。
むむ、これは掃除が大変だぞ。
アゼルの希望した仕事で決まったこととは言え、お世話になるのだから頑張らないと。
それから知らなかったのだが、ガドはこの部屋の下のフロアに住んでいるらしい。
俺の護衛になるに当たって、一緒にそこへ引っ越してきたのだとか。
その部屋はボスに貰ったんだと言っていた。
マンション一室……アゼルはなんてものをポンとあげているんだ。
それをガドに言うと、ボスはお金をあまり使わないから、まだまだ余裕があるとケラケラ笑っていた。
続けて有無を言わさない武力とあくどい金儲けは、マフィアの十八番だと続けられたからな。
うん、マフィア強い。
閑話休題。
そうこうするうちに、部屋に到着した。
金銭感覚の大いに違うボスが待っている筈の部屋の前で、ポケットを漁って鍵を取り出す。
ガドは俺の背中にのっしりと乗りかかって、それを見学中だ。
「そういえば、アゼルはもう起きているんだろうか? 連絡先を知らないんだ」
「ン〜? 起きてる起きてる。眠り浅いしなァ。むしろ、昨日は寝てねぇかもしんねェ」
「仕事が忙しいのか」
「まぁ仕事じゃねぇけど、忙しいと思うぜェ? いろいろとアレとかそれとか、クックック」
時刻は九時を少し過ぎたところだが、寝ているのを起こさないかと尋ねる。
すると、そんなことを言われた。
アレとかそれとかとは、なんだろう。
首を傾げてもよくわからないので、真相は保留。
起きているなら迷惑はかけないなと安堵し、取り敢えず鍵を差し込んで、ガチャッと扉を開けた。
──の、だが。
『あぁぁぁぁぁあッ!?』
「ん?」
鍵を開け、少し扉を開けた瞬間に響いたのは、まさかの絶叫。
「アゼルどうし」
ゴンッガシャガシャンッ! パリィンッ!
そしてガッツリと開いて中に入りつつ挨拶をすると、俺の後ろにいたガドにもはっきり聞こえるほど、騒々しい破壊音が響く。
日常では聞こえない音だけで、ただごとではないとよくわかった。
(俺の記憶では、ここにいるのはマフィアのボスだと思われるのだが……。! もしや襲撃か?)
「どしたァ?」
「ガド、襲撃だ。アゼルの悲鳴となにかが壊れる音がしたぞ」
「悲鳴ェ? じゃあ大丈夫だぜ。ボスは暗殺なんか怖くないから、大抵のことに動じないし、かなり強い。襲撃されたくらいじゃァ悲鳴はあげねェし、一人で撃退できるぜェ。悲鳴上げる時は大抵隠し撮りDVD見てるか、不埒な妄想をしてはしゃいでるだけだな〜」
「そうなのか。なら問題なく、安心だな。……それにしても、不埒なんて日本語をよく知っていたな」
「褒めてくれてもいいんだぜィ」
俺の肩に乗っかるガドに小声で報告したが、問題ないと説明を受けた。
俺は一安心してほっと胸をなで下ろす。
アゼルは無事らしい。
DVDを見ていると悲鳴を上げるなら、おそらく、ホラーでも見ているのだろう。
そして驚いてなにかにぶつけたか、壊したかしてしまった。
どうだ? 名推理だ。
珍しく冴えた自分に内心で満足げな顔をしつつ、ガドを肩に乗せたままキャリーを廊下に置いた。
それから、気持ち早足でリビングルームに向かう。
広いこの部屋では、リビングへ辿り着くだけでもそこそこ歩く。
そして扉をガチャ、と開いた。
「おはよう、アゼ……」
「…………」
──だがしかし。
扉を開けると、そこには局地的台風に襲われたのかというぐらい荒れ果てた室内が広がっていた、ミラクル。
その中でビシッとシャツとジャケットでキメているのに、この世の終わりのような表情で立ち尽くす男がいた。
それすなわち──アゼルである。
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