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第25話(sideアゼル)

 そんな映像も当然シアターモードで鑑賞する逸品だが、生の迫力ってのは侮れねぇからな。  初対面した昨日は眠れなかったぜ。  感動で身悶えた。  けれど俺と言う男は、なかなかどうして。  好きだとか嬉しいだとか言う好意的な気持ちを素直に伝えるのが、下手くそだったりする。  目の前に現れたリアルシャルに、興奮と尊さで拝みたいのを必死に我慢する為、腕を組んだ。  するとふてぶてしくなってしまい、ニヤケを堪えていると、仏頂面になってしまった。  あまりの胸ドキになにを話していいのかわからなかったら、ライゼンが来るまで、無言タイムだったのだ。  いや、話すべきことはわかってたんだけど、言葉が出てこねぇ。  日本語なんて、とっくの昔にマスターしてたのに。  マフィアのボスともあろう俺がみっともなく黙りこくっていても、シャルは怒らなかったし帰らなかった。  夢にまで見たシャルは、ずっと俺が話すのを待っていてくれた。  どこまでも穏やかで、初夏の海のように優しくて、笑顔はキラキラと輝いていて、紡ぐ声や言葉は拒絶を知らない柔らかいもの。  それほどシャルは俺フィルターを通せば存在が清浄だ。  なのに背筋をしゃんと伸ばしつつ、真剣に俺の言葉を待っているシャルがなんかもう、かわいくてかわいくて……!  例えるなら、画面の向こうからアイドルがぽんと出てきたみてぇな感じだ。  見ているだけで精一杯だった。  それが昨日。  ──そんなシャルが今日も、この部屋にやってくるのだ。  しかも正式に、俺と同棲(同居じゃねぇぞ)する為に。  俺と同棲する為に! お、俺とォ……! そりゃ必死になるだろうがッ! 「こうしちゃいられねぇ、コンセントはどこだ。掃除をするぜッ!」  そして俺は「凄く綺麗な部屋だな」と言わせて、褒められるんだ!  それから転げまわって終わった昨日のリベンジ、基そこからうまく話を広げる……ッ! (急募推しと会話するコミュ力!)  傍から見れば馬鹿らしいことを考えながら、普段家事なんてしないくせに、コンセントを探して浮かれたスキップを続ける。  住居が豪邸だろうがスラムだろうが頓着しない性格なのが、裏目に出た。  家電なんか感覚でなんとでもなる筈。  後ろで掃除機が引っ張られなにやら音を立てているが、大丈夫だろ。  掃除機ってのは最終的に勝手に動くからな。ル○バはそうだ。  クックック。シャルの部屋はもう用意してる、抜かりはない。  家具も似合いそうなものを一式、何日も吟味して配備した。  それ以外の部屋の家具はライゼンに一番良さげなやつ、と高級家具カタログを投げただけだが。  シャルの好物は調べ上げているので、野菜室の半分は桃で埋まっている。  昔の趣味がお菓子作りらしいから、製菓道具も一式揃えたぜ。  不便な思いはさせない。  早く会いてぇな。  昨日みたいなことにならないように、会話のシュミレーションしなければ。 「ふんふんふ〜ん。シャル、シャル、俺はちょっと目付きと口が悪いが、怖くない。優しいマフィアのボスなんだよ。思ったとおり話すのは苦手だが、お前にはありのままの俺で行きてぇ。お前の欲しい物はなんでも与えるから、毎日俺に味噌汁を作ってくれ! よしよし完璧だ。味噌汁は日本人の心らしいからな!」  日本人の心、味噌汁。  日本ではこれから二人で一緒に暮らそうと言うことを、「毎日味噌汁を作ってくれ」と言うらしい。  奇妙な民族だが、合わせるぜ。  シャルが日本人だからだ。  忍びの末裔で平和主義者で、ドンパチを嫌い孤立を恐れ、漠然と群れたがる職人が多い日本人。  俺はマフィアだから、それを怖がられやしないかと思った。  満を持して一緒に住むに当たり、仕事は大方片付けてしばらくごたつかないようにしてある。長期休暇だ。  まぁ俺の体にはいくつもの武器が仕込んであるが、普段の武装の範囲じゃねぇ。  それに忍びの末裔なら、それぐらい仕込んでて当たり前だろ。セーフセーフ。

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