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第26話(sideアゼル)

 そうして浮かれていた俺は、普段なら絶対にしない、うっかりミス。  コンセントを探して引き摺っていた掃除機があちこちに引っかかり、部屋の中が乱れていたことに、気づかなかった。  そして更にそのコードがテーブルの足や観葉植物に絡まり、崩壊寸前だということにも、当然気がつかず。 「ふふーんふんふーん」  ギリ、ギリギリ……、と引っ張られていくコンセント。俺の鼻歌。  限界を迎え、ガゴンッ! と音を立てて、コンセントに巻き込まれた物たちが暴れ出す。 「!」  ドンッ! ガチャーンッ! と背後で聞こえた物音に、素早くベルトに仕込んでいたコンバットナイフを取り出し、構えた。  その瞬間──揺れたテーブルから落ちたコーヒーメーカー。  土を撒き散らして倒れる観葉植物。  一瞬で荒れ果てたリビング。 「…………あ?」  その場で静かに立ち尽くすのは、掃除をしようとしたはずの俺だ。 (ドン、ガチャーン……? 掃除機が、掃除機が引っかかってやがるぜ……?)  掃除機は自分で動くだろ。  自分で掃除するから掃除機なんだろ。  そっと手に持っていたコードを置いて、机に引っかかり動けずに倒れている掃除機から、目を逸らす。  ──落ち着け。アゼリディアス・ナイルゴウン。今やるべきことは、過去を省みることではない。  今やるべきことはそう、時計を見て、シャルがもうくる時間じゃねぇかチクショウなんで俺は掃除の練習をしなかったんだ、と嘆く。  それからいつもは冷静だが、シャル関連すぐにバグる素敵な脳味噌を駆使。  まずは散らばった土を片付けようと思い、箒を探して走り出すんだ。  そして走り出しながら土に足を取られ、転びそうになる。  それを回避するべく、床に手をつき飛び上がって、ローテーブルの上に着地してしまうのだ。  そのおかげで置き時計やらリモコン置きやらをはじき飛ばし、ガシャァンッ! と騒音を撒き散らしたら、後はもう少し。  とてもすぐには片付けられない惨状に、絶望。  シャルに家事能力ゼロだとバレて、同棲解消されちまう! と頭を抱えた時。  ガチャン、と聞こえたのは玄関の鍵が開く音。  それは天使が舞い降りた音だ。  ……後は、わかるな? 「あぁぁぁぁぁあッ!?」 『ん?』  こんな姿見せられねぇ! と俺は焦りのあまり絶叫した。  俺は慌てて、部屋に入ってくるシャルに、なんとかこの荒れ果てた様子を隠す為、思考をめぐらせる。  キュピンと閃くと、キッチンからテーブルクロスを持ってこようと飛び出した。  だがしかし。  テーブルクロスがしまわれているのが、食器棚の一番上の小さな扉だ。 『アゼルどうし』  勢い余ってクロスだけを引っ張る。  ゴンッガシャガシャンッ! パリィンッ! と食器がいくらか落下して、収集がつかない。 (どっどうすんだ!? どうすりゃいいんだ誰か教えてくれッ! 部屋を買い換えればいいのか!? 綺麗になるだろ!? あああもうなんでもいい! 急がねぇと(ディーヴォ・スブリガーロ)おおおおッ!)

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