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第41話

 そうやって頭の中を素敵な想像で満たしつつ、のんびりと二人肩を並べて海を見る初めての魔界・海水浴。  浜辺や海の中にはたくさんの魔族達がいて、かなり際どい水着を着用している者が多い。  魔族の他に巨大な蟹やトゲトゲしい貝の魔物達がうろついているが、遊びの邪魔をすると周りの魔族が一斉に魔力で威嚇するので、肩身の狭い思いをしているようだ。  勿論、俺達のスペースには子蟹一匹近寄らない。  正体を隠すパーカーを着ているとは言え、魔物達には何か本能で察するものがあるのかもだな。  しかしながら、アゼルの気配が届かない海の中や浜辺では、やはり魔物達が蔓延っている。  海の中にはデデクラゲという一抱えほどある水饅頭のようなクラゲがいるし、魔界のヒトデはかなり素早く泳ぐし飛ぶ。シューティングスターフィッシュだ。  つまり危険な魔物は海軍が海水浴シーズン前に討伐しているものの、海にはそれなりに様々な生き物がいる。  現代とはわけが違うな。 「ん」  丁度タロー達が遊んでいる海域の近くに、巨大な魚影と触手がニョロリと現れた。  けれどいち早く気がついたリューオが振り向く頃には、その魚影──クラーケンは木っ端微塵。  犯人は当然、俺の隣の最凶監視員である。  水筒が一つ弾丸になったようだ。  俺は取り出した剣をまた召喚魔法域にしまい、アゼルに寄り添う。  海にも入らずパラソルの下でのんびりしている老夫夫の俺達。  少し暑気が蒸れてきたので、昨晩作り氷室で一晩冷やしたアイスキャンデーを手渡す。  俺は桃で、アゼルは葡萄だ。  眼光鋭いアゼルと二人、シャクシャクとアイスキャンデーを齧る海水浴。  これはこれでイイと思うのも、多分アゼル効果だと思う。 「魔界の海水浴と言うのは、実質海上戦だな……」 「海に魔物がいるのは当たり前だろうが」シュッ  ドゴォンッ! 「アゼル。タロー達に魔物が近づくたびに手近な物を投擲しなくても、リューオがいるから大丈夫だと思うぞ」 「剣しまえよ、シャル」  仕方ないだろう。  戦闘態勢に入っていると反射なんだ。  二百メートル程先にいるタロー達に魔物が忍び寄ると剛速球を披露するアゼルに、胡乱げな目で見られ、ちょっと恥ずかしくなりつつまた剣をしまった。  大人しくアイスキャンデーを咥えて、体育座りをする。  片膝を立てるアゼルがピタリと寄り添い、目線を合わせないのにさりげなく腕を絡めてきた。  デフォルトモードだ。 「お前のいた世界じゃ、海水浴は安全地帯だったのか?」 「沖に出なければ概ね安全だったな。たまにサメやらクラゲが出たりするが、ちゃんと気をつけていればそうそう死んだりしない。 戦闘になるなんて、なかった。剣を持ち歩いていると、警察……軍に捕まる世界だしな」 「なっ、やりたい放題じゃねぇか。魔法がないなら剣を持たねぇと、散歩に出たら骨も残らないだろっ」 「うん、人間は短時間で骨も残らず完全犯罪は難しいから大丈夫だ」 「海に入ったら三秒で溺れ……」 「ないぞ」  なんで半信半疑な顔になるんだ?  魔族はやはり、人間をハムスター扱いしている気がする。ただしリューオを除くようだが。

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