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第34話
【ケース2・オルガ】
家を出たオルガは見晴らしの良い丘に向かい、そこに木の家を建てることにしました。
「ふーむ、俺は木の家を建てるぜ。特に意味はないぜ!」
トンテンカンテン。
トンテンカンテン。
特に意味はないけれどそう決めたオルガは、木の板を運んで金づちをふるい、なかなか出来のいい家を建てました。
器用ですが冷静に見えて結構な放蕩者であるオルガは、三匹で一番軽率です。
「適当に作ったにしてはいいもんだな〜流石子ブタ。ガドマザーもこれならいいと言うだろうさ」
木製の掘っ立て小屋の中で、オルガは満足げにうむと頷きました。
立派な大黒柱がアクセントです。
川原で拾った流木ですが、そんなことは気にしないのが子ブタ流。
そうしていると、突然ドンドン! とドアが叩かれ、家の中にとびきり慌てたアリオが飛び込んできました。
「なんだよアリオ、ドアは優しくノックするんだぜ?」
「マナーを気にする暇はないんだぜオルガ! 黒い狼と人間が俺の家をビューンと飛ばしたんだッ!」
「な、なにぃッ!?」
話を聞いてひいこらと目の玉をひん剥いたオルガに、アリオは大変だ大変だ! と部屋中を行ったり来たり。
狼と言えば、森の動物をみんな食べてしまうおそろしい生き物です。
そして人間は、森の動物を美味しく料理してしまうおそろしい生き物です。
「食べられちまう!」
「食べられちまう!」
コンコン。
「こんにちは。俺は人間のシャル。ここに子ブタがこなかったか?」
「「うわああああ!!」」
アリオを追いかけてきた狼連れの人間、シャルの声に、二匹は一目散にドアに貫木をかけ、しっかりと押さえ込みました。
きっと子ブタを食べようとつけてきたのです。
ああおそろしい。間違いはありません。
「いないぜ! いないぜ! 人間なんてとんでもない! ブタを薄く削ぎ落として熱湯で湯がく非常識な生き物を、いれるわけにはいかないぜ!」
「しゃぶしゃぶだな」
「そうだぜ! そうだぜ! それだけじゃ飽き足らず、濃厚なタレとツンとする植物の根を塗りたくって、アツアツの鉄板で炒めやがる! 極悪な生き物はあっちへ行け!」
「生姜焼きだな」
「「かーえーれーッッ!!」」
一生懸命にドアの向こうに威嚇をすると、人間は「ご飯が欲しくなるラインナップが続くな……」と呟いて、悩ましげに呻きました。
するとどうでしょう。
ドカァァァンッ!
「「ムギャッ!」」
「あああ、いけない、アゼルっ」
またしても未曾有の大災害、今度は体当たりがオルガの家を襲い、適当に作った木の家は大黒柱を残して木っ端微塵になってしまいました。
そんな馬鹿な!
この俺が二時間かけて適当に作った木のホームが!
心の叫びは胸の中に。
ドアごと弾かれた二匹は、廃屋の上で抱き合い、ヒュードロドロと恐怖の脳内BGMを聞きながら恐る恐ると顔を上げます。
「…………」
そこにいたのは、案の定黒い狼でした。
拳を振り上げた状態で静止し、不機嫌そうに二匹を睨んでいます。
「アゼル、いけない、またノックで家を吹き飛ばしたのか、困ったさんだ」
いえ、よく見ると飼い主の人間に叱られて耳がしょげかえっていました。
けれどお仕置きとして脇腹を軽くつねられているのですが、それは嬉しいようです。
尻尾を揺らめかせている狼を見て、二匹は『これはもしかして意外とチョロいのでは?』と考えました。
身を守る毛皮もない人間は見るからに弱そうですし、見た目は大きな黒い狼ですが中身が温厚な犬ならば、狼だって怖くないでしょう。
「ええと、二匹とも。本当にごめんな。うちの子が申し訳ない……」
狼を叱った後に、人間はしゅんと身を屈めて、二匹に謝りました。
途端、パッ! と顔を見合わせるアリオとオルガ。
しめしめ。どうやら人の良さそうなやつらしい。
それなら話は変わってくるぞ? コイツをうまく子分にして、立派な屋敷を建てさせようか。
いつも一緒の三つ子の二匹、アイコンタクトはお手の物。
悪人面でニヤリと笑い、二匹はもう一度人間に向きなおります。
が。
「グルルルルル……」
「「アーーーーーーッッ!?!?!?」」
すたこらさっさと一目散に逃げ出した二匹が目撃したのは──人間の背後で牙を剥き出しにしている、狼だったのです。
話は聞かない。
短絡的。
そんなコミカルな子ブタ達は、三つ子の末っ子、キリユの元へ遮二無二駆けていきました。
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