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第35話

 【ケース3・キリユ】  二匹とは別の方向へ向かったキリユは、景観の美しい泉のほとりに家を建てることにしました。とにかくのんびりと暮らしたかったのです。 「俺は気ままで平和で愉快な日々が大好きなのさ〜! だから頑丈なレンガで家を建てるぜっ」  ウンショ、コラショ。  ウンショ、コラショ。  重たいレンガを運ぶのは骨が折れましたが、三匹の中で一番臆病で用心深いキリユは、事故もなくキチンとレンガの家を建てました。  匠の技が光るのは、大きなお鍋も難なく入る立派な暖炉。  サンタクロースも出入り楽々な煙突付きです。 「なんということでしょう、山ほどのレンガが家にっ! マザーの言いつけはこれで守ったぜ! 外で壁当てでもして遊ぼうかな〜!」  自画自賛できる出来栄えに、キリユはすっかりご満悦。  晩ご飯はお魚だぜ! なんて浮かれ気味に釣竿とボールを持って、外へ出ようとしました。  しかしゴンゴンッ! と乱暴なノックの後、涙目で怯えたアリオとオルガが家の中へ飛び込んできたのです。 「おいっおいっ、そんなに慌ててどうしたんだよう? よそのブタに尾っぽでもかじられたのかっ?」 「キリユ! 狼を連れた人間が来たんだぜッ!」 「俺達の家はあっという間に全壊だぜ!」 「なんだってーッ!?」  事情を聞いたキリユはやっぱり目の玉を大きく見開き、ピョンと驚愕で跳ねました。  三つ子の子ブタは、リアクションまで似ているようです。  三匹揃って大変だ! 大変だ! とブウブウ鳴きながらてんてこ舞いになっていると、はかったようにコンコン、とノックされるドア。 「「「来たーーーーッ!!」」」 「こんにちは。私、旅人のシャルです。こっちは黒狼のアゼル」 「「「魔女宅だーーーーッ!!」」」 「ん? ……ああ。ウィンガーディアムレビオーサ」 「「「ハリポタだーーーッ!!」」」  そうじゃない!  誰も魔法使いのチョイスに騒いでいるわけじゃない!  「ごめんごめん、こっちだった?」みたいなテンションでセリフを変えても立ち入り禁止だッ!  三匹は見事な連携でドアに素早く貫木をかけると、全身全霊でドアを押さえ込みました。  ここが最後の砦なのです。 「人間ッ! 厚切りのブタをデコボコな鉄板で焼き目をつけて、炎でカリッと焼き殺す小癪な生き物だぜッ!?」 「ポークステーキだな」 「人間! ブタを縄でギチギチに縛って濃厚な謎のタレで溺れさせた挙句、表面をこんがり炙った上で、手間隙かけてじっくり圧死させる慇懃無礼な生き物だぜ!」 「チャーシューだな」 「人間っ! 細切れにしたブタを、体が熱くなる悪魔の実で漬けた野菜と一緒にしこたま炒めて、卵と甘辛いタレで滅茶苦茶にする卑劣な生き物なんだぜっ!?」 「豚キムチだな」 「「「あんまりだぁぁぁぁぁ! どうしても美味しく頂いてやるってな悪意を感じるぜ!」」」 「いや、どうしても美味しくなるのがお前達なだけなんだが……」

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