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第36話

 うるさいうるさい! とにかく帰れ!  困ったように呟く声に、三匹は一斉に「かーえーれッ! かーえーれッ!」と、騒ぎ立てました。  人間はホトホト困り果てて話を聞いてほしいと懇願しています。  それでも頑丈なレンガの家へ立てこもり、三匹は人間を中にいれてはあげませんでした。  どうしたって美味しいのはブタの誇りですが、食べられるのはノーサンキュー。それが三匹の総意だったのです。 「シャル、リード離せ。煙突(別の玄関)から訪ねて、この人の話を聞かないアホブタ共に、俺が話しをつけてきてやるぜ」 「そうか、あれも玄関だったんだな。それじゃあ頼む。怪我をしないようにな」 「ふふん。誰に言ってやがる」 「「「!?」」」  そんな三匹の耳に、ドアの向こうから悪逆非道な狼ボイスが聞こえました。  なんと狼は飼い主を丸め込み、不法侵入を正当化したのです。  リードから解き放たれた狼が子ブタの元へやってくるなんて、悪夢でしかありません。  三匹は弾かれたようにドアから離れると、各自が慌てて対策を練ります。  そして急いで暖炉に火をくべて、水の入った大きな鍋をかけました。  これで狼を釜茹でにするようです。 「茹でれるか!? いけるか!?」 「いけなきゃダメだぜ! あの狼を見ただろ!? 俺達はペロリとやられちまう!」 「いやだーっ! 死にたくなーいっ!」 「落ち着け! どっかの本で煙突から侵入してくる狼の対処法は、鍋に落とすとあったんだぜ! 間違いないはずだッ!」 「「おお〜」」  バシャンッ! 「温い」 「「「ですよねーッ!!」」」  当然のことながら、狼が煙突に上り始めてから水を入れた鍋を火にかけても、沸点にすら到達するわけがないもので。  足元が濡れた狼が不快そうにブルリと身を震わせ、暖炉の中からのっしりと侵入を果たしてしまいました。  こうなってはさしもの三匹の子ブタとて、ブウブウと騒いでもいられません。  参考にした物語では見事撃退できていた狼は、部屋の隅でガタガタと震える三匹を見下ろしているのです。  できることはただ一つ── 「「「なんなりとお申し付けください」」」  ──ジャパニーズ・土下座、だけでした。

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