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第48話

 焦りだした俺は急いで二人の元へ駆け寄るべく、小走りで向かう。  ゆ、許さないぞ。俺の娘にはナンパなんてまだ早い!  それにユリスにはもう恋人がいるので、お引き取り願わなければ!  そんな覚悟を決めて走り出した──が。  その途中で突然、俺の前に大柄な魔族がヌゥ、と立ち塞がった。  ドンッ! 「くっ」  あまりにも突然で避けきれなかった俺は、物の見事に正面衝突。  ビシャッ! とその魔族の水着にフルーツジュースがかかってしまう。  なんてことだ。前方不注意だった!  岩山のような魔族は不機嫌に唸り、長い尾を大きくくねらせる。  この存在感でどうして俺は気が付かなかったのか。  二人がナンパされている事実が衝撃過ぎて、二人しか見えてなかったようだ。 「オイオイオイオイ! お前どうしてくれんだよ、あぁ? この俺の金貨五枚の水着にべったりジュースなんざ掛けやがってよォ!」 「わ、悪かった、ちょっと急いでいて……! 後で弁償するから、今は見逃してくれないか? 頼む、きっと戻るから……!」 「ゴメンで済んだら軍魔は要らねぇ!」  オロオロと困惑しながらも謝るが、キシャーッ! と俺に向かって威嚇する魔族。  見た目は食堂のリザードマンと似ている二足歩行の爬虫類な彼は、身長がゆうに三メートルはある。  滑らかな青色のウロコが綺麗なイケメンマッチョリザードマンだ。  カーキの水着にノースリーブパーカー。  頭の上のサングラスが良く似合っていて、ヤの付く自由業の方々のような雰囲気がある。  うっ、イケ爬虫類……!  かわいい……!  動物、及び爬虫類好きの俺としてはなでたい衝動に駆られるが、そんなことをしている場合ではない。  その圧倒的身長差によって、俺は見事イケ爬虫類さんの水着にジュースを零してしまったのである。  俺という男は、いつも海街ではうっかりしてしまう呪いでもかかっているのかもしれない。深刻にお払いに行かねば。 「本当に申し訳ないと思っている。このとおりだ、許してほしい」  一刻も早くあの魔王城のショタっことロリっこのミニマムコンビを助けに行きたい俺は、ガバッと頭を下げた。  それから頼み込むために頭をあげると、身長差のせいで見上げる形になる。  フードを被ったままだが、顔だけは見えるだろう。真剣に申し訳なく思っていることが伝わればいいのだが……。  けれどそういう意味でじっと見つめる俺に、リザードマンは爬虫類らしくクリ、と首をかしげてまじまじと見つめ返してきた。 「お? ……フーン? お前、結構俺好みの顔してるじゃねぇか」 「? そうなのか……? ありがとう」 「いいってことよ」  なんだか突然顔を褒められたので、顔面偏差値がずば抜けた魔族とばかり暮らしている俺は素直に嬉しく思い、お礼を言う。  リザードマンはニンマリと笑ってズズイと俺に顔を近づける。  尻尾が機嫌良さそうに揺れているのが見えた。ガドと同じだ。 「うしし、褒めてやるぜ。俺はウロコのないツルリとした種類が割と好きなのさ。ふーむふむ、色が白いのはイイよなぁ。目がデカかったり唇がエロかったり、そんな美形じゃねぇけどよ、パーツと配置のバランスは整ってる。それからあれだ、なぁんにも知らないような顔してるのがイイ」 「人型が好みなんだな。なんにも、はどうだろう。知っていることは知っているぞ」 「そういうとこだぜ」  そういうとこ、と言われてもわからない俺は、リザードマンと同じように小首を傾げた。  よく俺のまわりの人がそういうところと言うが、どういうところかわからない俺からするとちっとも伝わらない。いつも困る。

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