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第49話

 両手が塞がっているのと、迷惑をかけた負い目があって抵抗できない。  するとリザードマンはその大きな手を伸ばして、俺の顎をクイ、と掴み上げた。 「俺みたいなのに組み伏せられて、自分がメスみたいによがれるって知らねぇ感じよ」 「あぁ、それなら、……むむ」  それなら──そこそこの頻度で思い知らされているが。  俺をからかっているのか、本当に女性の代わりにしたいのかはさておき、知らないだろうと揶揄されている意味はわかる。  けれど俺は、ムウと唇を引き結んだ。  おっと危ない。  俺が既にそっち側に慣れているということなんて、初対面のイケ爬虫類さんに知られるわけにはいかないのだ。  それに俺の顔が好みだというのは、そっち方面の意味だったのも同時にわかった。  これに頷いては浮気になる。  旦那さんが魔王様である俺と浮気するなんて、俺もこのリザードマンも今日が命日でファイナルアンサーだろう? 「カカカ、そうだろうよそうだろうよッ。そういうのを仕込んでいくのが楽しいよなぁ」  んん、申し訳ない。こう見えて調教済みの非処女というものだ。男なんだがな。  仕込まれ済みなのでなにも楽しくないぞ。  それ以前に、アゼル以外に仕込まれた体を使わせる気もないが。  俺はさり気なく掴まれた顎を離そうと顔を振ろうとするが、ビクともしない手。  リザードマンは俺がそうして密かに逃げ出そうとしているのも楽しいようで、俺にセクハラ発言を浴びせかけている。  男の俺に張り型を押し込むのだとか、アレを舐めさせるのだとか、セクハラ満載だ。  どう見ても悪意を持って絡まれているんだが、周囲はこちらに見向きもしない。  キャンキャンとお得意の毒舌でメンタルが粉砕されそうな罵倒を浴びせて応戦するユリスと、彼に守られるよくわかっていないタローにも、誰も助けに入らない。  こういうことに慣れきっているんだろうな。  流石魔界。自分の力が全ての世界。  やはり自分でなんとかして、二人も助けに行かないといけないということか。  わかりやすくて好きだ。  血なまぐさいのは好きじゃないが。 「細っこい顎だなぁ。柔らかくて、美味そうだ。散々に中を犯した後、悲鳴をあげる喉元を食いちぎって、美味しく食べてやりてぇなぁ。どうだ?」 「どうだと言われても、そんなの困る。離してほしい。その……汚した水着は弁償するから、許してもらえないだろうか……?」 「クカカ! お前に頼まれると、なんか、めちゃくちゃにしたくなるなぁ。じゃ、痛いことはしねぇ! これでどうだ? 殺さなきゃイイだろ?」 「犯されるのは結構痛そうだぞ? それに俺は……」 「じゃー問答無用だぜ」  ん、話を聞いてくれない。  こうなっては武力行使は最終手段だけれどやむを得ないと判断し、剣を召喚しようとする。  そんな時だ。  ズバッ! と黒く鋭いなにかが砂浜を駆け抜け、そのまま俺の顎を掴んでいたリザードマンの手を、刈り取ったのは。

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