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キスをしたい、です…
「今日は体調不良って事で、早いけど帰っていいよ」
そうレノに言われるまでもなく、エイデンは既に獣の姿に変化 しミケルを背に乗せ小屋から飛び立つ。その流れるような一連の動作に、空を見上げるレノは思わずクスッと笑顔になった。
「いくら周りから見えないとはいえ……兄様大胆すぎだろ」
エイデンの獣の姿はどうやら一部の者にしか見えないらしい。ミケルやレノには勿論見ることができる。きっとこれはエイデンと繋がりが深い者にだけのようで、指摘されずともエイデンは初めからそれは理解していたようだった。
まだ日も明るい空。心地良い風を浴びながらミケルはエイデンの背にしがみつき顔をそっとつける。
胸がドキドキする……狂おしい程愛おしく、そしてどうしようもない程の独占欲に涙が溢れそうになる。自身の発情のせいでこんなにも苦しいのだと、ミケルはぎゅっとその背を掴んだ。
「エイデン様……俺は苦しいです」
エイデンに聞き取られないほどの小さな声でそう呟く。求められていないのに、自分だけがこんなにもエイデンを求めて発情していることに恥ずかしさを覚えた。
「ミケル? 着いたよ……大丈夫かい?」
いつの間にか寝室へ運ばれていたミケルは、少し朦朧となりながらも自分がエイデンとベッドの上で横になっていることに気がついた。
「ごめんね……ちょっと嫉妬した。発情期なのに、僕の気にあてられちゃったよね」
エイデンはミケルをふわっと抱きしめながら「意地悪してごめんね」と謝った。エイデン自身からもミケルに対して微量のフェロモンを出していたから意識が朦朧としてるのだと説明された。その所為で力が入らず半獣の姿になってしまっていることにも気がつき、ミケルは恥ずかしさで消えたくなった。
「す……すみません、こんな……こんなお見苦しい姿で、俺……」
「ん? 別に見苦しいなんて思わないよ? それ、僕は好きだけどな……可愛い」
エイデンはいつもそうする様にミケルの体を抱き寄せ、その腕に抱える様に優しく包む。ミケルにとってこの行為は安心でき、多幸感に包まれながら眠りにつける愛情表現で心が落ち着ける行為のはずなのに、今は全くと言っていいほどに自分勝手に苛立ちが募っていった。
「エイデン様……おやめください。俺、ちょっと今日は……」
「今日は、何?」
ここまで密着されているというのに、エイデンからは何も性的なものを感じることができない。自分ばかりこんな風に悶々としている事にもどかしさを感じてしまう。何故こんなにも求められないのか悲しくなってきてしまった。
「……あなたに、キス……したいです」
エイデンから顔を逸らし、ミケルは小さくそう呟く。もう理性なんて働かない。それでも僅かに残る羞恥心がブレーキとなり体を縮こまらせた。
「何? ミケル、ちゃんと僕の方を見て…… どうして欲しいの? 」
ここまできてそんな風に言われてしまえばもう意地悪をされているとしか思えず、とうとうミケルは体を起こしてエイデンにしがみついた。
「どうして欲しいだなんて! あなたは俺がどうして欲しいか分かってるくせに……何故そのように意地悪を言うのですか? 俺を……俺を抱いてください。早く番にしてください」
言いながら涙が溢れる。エイデンは必死なミケルの頬に手を添えると「いいの?」とじっと見つめた。
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