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命を宿す

「多分だけど、ミケルのお腹にはきっと赤ちゃんがいると思うんだ」 明け方までゆるりと愛し合っていたミケルに、徐にエイデンはそう伝える。 相変わらずベッドの上にはエイデンの衣類が散乱しており、本人を目の前にしてミケルはその衣類を自身の身に手繰り寄せつつ顔を上げた。 「え? ……赤ちゃん?」 驚き目をまん丸にしているミケルを見てエイデンはくくっと笑う。自分の体なのに気がつかないのかと少しだけ呆れたように言うエイデンに、ミケルは縋るようにして身に纏っていた衣類を退かしながら体を寄せた。 確かに普段の発情期とは異なった感覚はあった── それでも初めてのことだらけで只々戸惑いと不安しか湧かない。 「どうしよう……エイデン様。俺……俺……」 勝手に溢れてしまう涙を拭うことも忘れ、ドキドキする胸の鼓動を落ち着かせるように胸の前で手を組むミケルに、エイデンは優しく包み込むようにして抱きしめる。 「何でそんなに怯えるの? 僕とミケルは運命の番なんだよ? 当たり前に赤ちゃんだって出来るし、ちゃんと産める。不安に思うことなんて何もないよ。僕とミケルの大切な子どもだ…… 後で二人で街に降りて病院に行こうね」 ずっと一人で、この先孤独に生きていくと信じて疑わなかった自分に運命の番ができた。その上その大切な人との愛の結晶……新しい命をこの身に宿したことにとてつもなく気持ちが高揚する。 高まる喜びと不安、この先出会う愛しい我が子を思うと様々な感情が溢れ出し言葉にならなかった。 一旦落ち着いてから二人で眠りにつき、そして目覚めてから病院へ向かった── 普通、人は大体決まった期間、腹の中で子を成長させる。人の女性性、Ωの男女、共に体の中に存在する子宮で子を長い期間育むのが定石。でも獣人に限りそれが常ではなかった。 獣人は種によって妊娠期間の状態や子の成長の過程などが異なるという。なので妊娠が疑われる場合にはその分野に精通している医師に診てもらう必要があった。 ミケルは初めての妊娠の不安もさることながら、自分と同じく獣人で尚且つ特殊な種であろうエイデンのことを医師になんと説明したら良いのか、それを考えるだけで足取りも重たくなってしまった。 「ご懐妊だね、おめでとう。ちょうど今、二人とも揃ってんならこれからの事も説明させてな。ちょいと待つけど大丈夫だろ?」 初老の医者は、簡単に診察するとそう伝え、血液検査の結果もすぐに出るからしばらく待つように言われたミケルは待合室で待機していたエイデンの所へ戻った。意外にも、問診の際は番相手の種族の事など何も聞かれなかった。今の時代はプライベートな事だと言い、医者と言えども自分の種を打ち明けるのを嫌がる者も少なくないという。聞かなくとも血液検査で判断できるし、同種でも個人の特徴で成長等違う場合もあるので、正確性を重視しわざわざ相手の種までは聞かないのだと教えてもらった。 「エイデン様……俺、本当に妊娠してました。エイデン様と……俺の子」 まだ何も実感がわかないものの、報告をしながら思わず自分の腹に手を添えてしまう。そんなミケルを見て、エイデンはこの上ない程嬉しそうな顔をして両手を広げて抱きしめた。 「僕とミケルの子! なんて素敵なんだろう! 凄いや! こんなに嬉しいことはないよ!」 エイデンは隠すことなく感情を爆発させ、ミケルを抱きしめたまま興奮し喜んだ。待合室には他にも人がいる。ミケルは周りの視線に恥ずかしくなり慌てるもののその視線の全てが祝福してくれているような優しいものだと気がつき、嬉しくて泣きそうになってしまった。

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