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それはファンタジーのような…
しばらく待たされた後、エイデンと共に再び診察室へ呼ばれた。
そこには先程の初老の産科医ともう一人、若い看護師が何やら神妙な面持ちで待ち構えている。得体の知れない緊張感にミケルは少し不安になりエイデンの手にそっと触れた。
「ミケル? リラックスね……」
エイデンはそんなミケルの心情を察知し、その手をグッと握り返す。医師に促され、二人並んで対面の椅子に腰かけた。
「……相手は男性のα、だね?」
「はい」
医師はカルテのようなものと細かな数字が書かれた紙を難しい顔をして眺めながら、顔も上げずにエイデンにそう聞いた。先程ミケルを見ていた時には見せなかった難しい表情にどうしたって緊張が走ってしまう。
「お互い獣人ってことで間違いは?」
「ないですけど……」
エイデンも何かを察してか緊張気味に受け答え、ミケルの手をもう一度ギュッと握りしめた。
「単刀直入に言うけどね、ちょっと……いや、かなり変わってるんじゃよ」
やっと顔を上げた医師は、難しい顔から一変して優しい表情に戻るとミケルとエイデンを交互に見る。変わってる……とは一体どういう意味なのだろう? と首を傾げていると、医師は嬉しそうに話を続けた。
「俺がまだ若い頃に一度だけ見た妊産婦と似てるんだけどな、君の場合、他の者より成長速度が著しく遅いんだよね。分かりやすく言えば……そうじゃな、不老不死とまでは言わんが普通の人より寿命が倍以上ある感じだな」
唐突にファンタジーのようなことを言われミケルは混乱する。
成長速度が遅い……人より倍も遅い? 今まで自分は普通に成長してきたはずだが? ならお腹の中の子の成長速度は? ちゃんと成長するのだろうか? 小さな赤子のままずっと生きていかなくてはならないのか?
途端に不安になりエイデンを見る。エイデンは「凄いね」と医師と同じように嬉しそうな顔をしてミケルを見ていた。
「いや……あの、成長速度が遅いって、子どもは? 腹の中の子は大丈夫なんでしょうか?」
何故か嬉しそうな顔をしているエイデンや医師に、ミケルは何故? と思いながら不安に思うことを聞く。
「ああ、それは大丈夫。あくまでもそれは君の体のことだからな。赤ちゃんは通常に成長するよ。きっと番っているお互いの種の影響なんじゃろうけど、ああそうだ……番の君の血液も取らせてもらってもかまわないだろうか?」
聞かれたエイデンは快く頷くと、看護師に連れられ別室で採血をしに行った。
「一応普通妊娠の人とは別に、君は小まめに検診に来てもらうことになると思うけど、まあ妊娠期間も通常と変わらないと思う。赤子が産まれてからは、おそらくだけどある程度までは通常速度で成長はすると思う。成長が遅くなるのは成人してからなのか、それとも誰かと番った時なのか……それは産まれてきて検査しなきゃわからないことだからな、まぁあまり思い悩むことはない。子どものままってことは絶対にないから」
ミケルはそう言われて少し不安が和らいだように感じた。丁度エイデンも採血を終え戻ってくる。また先程と同じようにミケルの隣に腰を下ろし、優しくそっと手を繋いだ。
「ふふ……素敵すぎるね。僕とミケルはずっとずっと一緒にいられるんだよ。ワクワクしちゃうよ」
それこそ子どものように無邪気にそう言うエイデンを見て、あまり深く考えずにもっと前向きに考えようとミケルは思った。
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