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不安と迷い そして希望
何度かの定期検診を経て、ミケルは一般的な妊産婦と比べて出産が早くなりそうだとわかった。
子の成長速度はミケルとは反対に大分早いらしく、通常の半分の期間での出産になると言われエイデンと共に準備に追われる毎日だった。時折レノも家まで来てくれ、必要なものを調達してくれたり家のことを手伝ってくれたり、エイデン以上に甲斐甲斐しく世話をやいてくれミケルはとても心強かった。
日に日に大きくなる自分の腹にミケルは違和感を感じ始めた──
ここ数日の間には胎動まで感じるようになってしまった。間違いなくこの中に赤子が入っているのだと、寝ている時でも体の中の蠢きを感じて実感が込み上げてくる。
祝福され大事にされ、幸せになるのを約束されてこの世に産まれ落ちるのだとわかっているのに、何故だかどうしようもなく不安になる。
「エイデン様……」
「どうしたの? ミケル、また泣いてるの? 大丈夫だよ……僕もレノもついてるよ」
出産が近づくにつれ、ミケルは毎晩のように不安に駆られエイデンの胸に抱かれて泣いていた。その度にエイデンは根気よくミケルにこれからの幸せを語り、ミケルもこんなに愛されているんだよ、と優しく諭した。ミケルの不安は自身の生い立ちにも原因があるのもわかっていたから、エイデンもレノもこれ以上ないくらいの愛情でミケルを励まし出産に備えた。
出産予定日間近の検診の日、ミケルはエイデンと一緒に産科へ向かう。
ペガサスの背ではなく、二人で手を繋いで並んで歩く。ここまで来たらミケルの腹は誰が見ても一目瞭然の妊婦のそれで、男のΩが臨月で街中を歩いているのは珍しいらしくどうしたって人目を引いた。
「ミケル……? 大丈夫かい?」
流石のエイデンもこの視線に気がつきミケルを気遣う。それでもミケルは何か吹っ切れたような顔をして笑顔を見せた。
「毎日メソメソとすみませんでした。俺ならもう大丈夫……」
エイデンの横に並び、ぎゅっと手を握るミケルはしっかりと背筋を伸ばし見違えるほどに堂々としていた。
昨晩ミケルは夢を見ていた──
暗闇の先にある小さな光。そこにはこれから出会うであろう小さな男の子の姿があった……
顔かたちはよく見えなかったものの、それは間違いなくミケルとエイデンの愛の結晶……自身の分身の姿だと確信していた。言葉を発するわけでもなく、ただそこに佇んでいるだけなのに直接その子に語りかけられ、ミケルの迷いや不安は嘘のように綺麗に晴れた。
「俺、この子に会ったんです。大丈夫だって言ってくれました。大好きだよってこの子からもちゃんと認めてもらえた……エイデン様もいるし、レノ様もいる…… 俺は愛されてるってちゃんとわかってるから、もう大丈夫」
大きく突き出た腹を愛おしそうに撫でながらミケルは呟く。
「エイデン様?」
急に歩みを止めるエイデンにミケルは振り向く。見るとエイデンはその場で立ち止まり、大粒の涙を零して泣いていた。
「ミケル! 僕も会ったよ! 僕もこの子に会ったんだ…… ミケルも僕も、愛してるって言ってくれた……だからこの事をミケルにも話そうと思ってたのに! ちゃんとミケルにも会いに行ってたんだね! 嬉しすぎて愛おしくて、僕涙が止まらないや!」
感極まったエイデンに優しくハグをされる。二人して泣きながら、それでも誰よりも幸せそうにしばらくの間その場で抱き合い笑い合った。
病院に到着すると、何故かレノも駆けつけていた。
「なんでレノがいるの?」
「いや、子ども今日産まれるんだろ? なあ、ミケル?」
「え……まだですよ。今日は検診を受けに来ただ……け……」
検診予約の時間になった途端、ミケルは急な腹痛に襲われその場に蹲り動けなくなってしまった。
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