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第2話

 ここでソファから、キャビネットに鎮座まします写真立てに視線を移してみよう。ともにタキシード姿のツーショットが、うっ、まばゆい。  木崎誠也、二十八歳。今村翼、十八歳。  ふたりは先々月まで体育教師とその教え子、という関係にあった。翼が学び舎から巣立ったのを機に、 「息子さんを僕にください」  誠也が今村父に嘆願しにいった。  せがれをたぶらかした淫行教師め成敗と、あわや日本刀の錆となる騒動を経て、晴れて一緒に暮らしはじめた。そう、法的にはともかく、ふたりは立派な新婚夫夫(ふうふ)だ。    今を去ること三年前、花吹雪が校庭を薄紅色に染め替えた日の出来事だ。  自己紹介を兼ねて、新一年生を前にダンクシュートを披露した誠也と、翼の間を稲妻が走った。即ち、ひと目惚れし合ったのだ。  以来、交換日記で愛を育みつつも、エッチはもとよりキスも翼が卒業するまでおあずけ、とケジメをつけてきた甲斐あって、かえって絆が深まった。  切なくもひたむきな恋の軌跡を一から十まで書き綴ると大長編になるため、割愛する。    胃腸薬必須の翼の手料理、誠也の腕枕でおやすみなさい……等々。おままごとのような新婚生活を彩るエピソードには事欠かないが、こちらもあえて省略する。  何しろ一大事なのだ。まじめな性格が災いして、誠也がいわゆる──それも重度のものを患い、夫夫に最初の試練が訪れてしまった。  説明しよう。  翼の体操着姿というのが、マシュマロのようにぷにぷにした太腿が悩殺ものだった。目を奪われたが最後、教師にあるまじきマット運動をマンツーマンで指導したくなるのは必至。  そこで誠也は、意志の力で翼の胴体をぼやけさせるという技をひねり出した。三年間にわたって、ストイックでありつづけた後遺症だ。  誠也の網膜に、翼の裸体にモザイクがかかって見える機能が搭載されるに至った。  その結果、愛の営みにおよんでも、乳首をはじめペニスも花園も霞んで性欲が減退する現象にみまわれる。出端をくじかれたムスコは、いじけてストライキに入る。

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