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第5話

 誠也は髪の毛を搔きむしった。ウナギの蒲焼きにご利益を求め、赤まむしドリンクおよびスッポンエキスの効能にも一縷(いちる)の望みをかけた。  おかげで勃ちっぷりはロケット弾に匹敵するが、いざ正念場を迎えると、へにゃチンと化すようでは屁の役にも立たない。  ところで誠也と翼が、ばななマンをつまみ出さないのはなぜだ、とツッコむのはご容赦願いたい。  本作品は、ご都合主義がまかり通る「やおい」である。もちろん釈迦に説法だろうが、「やおい」とはヤマなしオチなし意味なしの略だ。  閑話休題。 「柔軟体操はじめ!」  ホイッスルが吹き鳴らされたのにつられて、新婚夫夫は向かい合って床に座った。足をそろえて伸ばし、その足の裏同士をくっつけて両手をつなぐ。  それから代わりばんこにボートを漕ぐように、ピィの合図で誠也が反り返り、ピッで翼が弓なりに上体を反らした。 「先生……誠也さんが、ペアを組むのにあぶれたおれのパートナーになってくれたことがあったよね?」 「ああ、翼がころんと胸に突っ伏してくるたびに、キスをねだられているなんて妄想がふくらんで心臓がバクバクしたなあ」  キスと、おうむ返しに呟いて、翼は目を輝かせた。のめる順番が回ってくるのと同時に、思い切って誠也に馬乗りになり、 「供養その一、これでクリアだよ」  顔をうつむけて唇をこころもち突き出した。  体育館での授業風景が、愛の巣にオーバーラップする。誠也の喉が、ごくりと鳴った。  逆立ちの補助にランニングフォームの矯正、と翼に触れる機会も正当な理由もあれど、指導の範疇を超えるのはご法度。  供養とは言い得て妙で、柔軟体操からのチュウをいただきましょう、いただきますとも。  早速シュークリームのように美味しそうで、ぽってりした唇をついばんだ。舌を入れたい、翼もそう望んでいるに違いない。  ところが誠也は突然、ロープで雁字搦めにされるように感じた。懲戒免職という糸を()ったロープで。 あたふたと立ちあがり、スクワットをやりはじめた。煩悩退散、煩悩滅却。

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