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#祈りを込めて

ずっと待ってた。雪が降る、凍える季節に。 「おっせーなぁ」 ずっと、ずっと…。 **** 「ねぇ〜、そろそろ私たち付き合おうよぉ」 「やだ」 「なんでぇ!?ちゅうもえっちもしてるのに!」 厚化粧に、キツイほどの香水、騒がしい髪色に、実際騒がしい性格の彼女はセフレ。社会人にもなりゃ、セフレなんて珍しいものでもなんでもない。 「…はぁ、もうお前無理。めんどくさい」 やっぱり女はめんどくさい生き物だ。数回寝ただけで「好き」だの「付き合いたい」だの言ってくる。 セフレっていうのは"セックスするお友達"で、それ以上の関係なんて求めてないって、最初に言ってるんだけどな。 「…っ、最低!」 パンッ!と乾いた音が響いて、ヒリヒリ頬が痛む。そして彼女は泣きながら去って行った。まぁ、これが初めてってわけじゃないから、どうってことはないけど。 『女の子泣かしちゃダメって言ってるだろ!?』 煙草を咥え、ライターで火をつけようとした時、ふと頭の中であいつの声が再生された。俺に説教をする記憶の中のあいつは、背丈も声色も顔も髪型も、全て数年前のまま。 「…あーやだやだ。思い出したくない事、思い出した」 たまに起こるフラッシュバックに、フルフルと頭を振って何事もなかったかのように家に帰った。 特に予定がなかった今日は、帰って早々風呂に入ってビールを開ける。たまには一人で夜を過ごすのもありだなと思いながら、つまみに手を伸ばす。今日あった出来事なんてこの時には綺麗さっぱり忘れていた。 ーそれから何時間経ったのだろう。気が付いたら、真っ暗な空間に俺はいた。ぼんやりとする頭は、そこがどこなのかすら考えようともしなくて。 「…めんどくせ」 目を開けているのも、立っているのも、呼吸すらめんどくさく思えて仕方なかった。このまま、この空間で死ぬことって出来るのかな…なんて思い始めた時。 『おい!』 「…あ?」 背後からガシッと肩を掴まれ、振り向かされる。突然のことだったのに、それに対しては驚くこともしなかった。 だが… 「…えっ!?お前は…っ!」 『この、バカモーン!』 「いてっ!」 その相手を見た瞬間、俺は目を見開いた。けど容赦なくチョップをかまされ、しゃがみ込む。 「えっ、なに、いたいし…っ、つか、お前!」 『よぉ、久しぶりだなぁ?ヒヒッ』 そう言って数年前と変わらない笑顔で笑いながら、チョップした俺の頭を撫でてきた。 「…っ、」 『おろっ?おろろ?どしたどした〜!』 懐かしい感覚に、ぶわっと涙が溢れては滝のように流れ出る。俺の頬を伝う涙を見て、そいつは一瞬焦ったような顔をしたけど、すぐ優しい顔になり、俺の前にしゃがんで。 『…寂しかった?』 なんて、聞いてくる。 「…うん…っ」 俺は涙と鼻水を垂れ流しながら、掠れた声で頷いた。 『辛かった?』 「うん…っ」 『死のうと思った?』 「…っしんだのは、おまえじゃん…っ!」 『…そうだな、あははっ』 雪が降る、凍える季節。 あの日、あいつは来なかった。 待っても待っても、来なくて。 『ずっと待たせちまって、悪かったな』 連絡もつかなくて。 『すぐに連絡もできなくて、悪かった』 こいつが死んだって知った時には、 『俺が臆病で、親に伝えれなくて…悪かった』 葬儀も、全部…終わっていた。 『あの日…お前を家に呼んで紹介するつもりだったんだ』 寒い中ずっと待ってたせいか、風邪を引いた俺は三日間大学を休んでて。学部が違うこいつと付き合ってる事は誰にも言ってなかったから…連絡が来なかった。 『ずっと言えてなかったことが、耐えられなくてさ…親にも、お前にも…』 大学に行って、初めて死んだことを知らされた時、何もかもが遅くて、俺の中で何かが壊れて…俺は学校を辞めた。 それからまともな人間になるのに数年かかって、やっと立ち直れたんだ。まだクズな部分もあるけど、やっと…お前を…。 『…ずっと逃げてたから、死んじまったのかなぁ…っ?』 「…っバカ野郎!!」 そう叫んで、泣きながら笑うこいつを抱き締めた。 こいつの言う言葉が深く刺さって、笑顔が深く刻み込まれて、見せる涙が…深く眠っていた俺の中の恋心を呼び起こす。 「なに俺の許可なく死んでんだよ…っ」 『…っ、ごめん…』 「おまえの事、ずっと待ってたんだぞ…!」 『…待たせて、ごめん…っ』 「おまえに、ずっと会いたくて…逢いたくて…っ!」 『俺は、ずっとそばに居たよ…っ!』 「っ見えねぇんだよ!この馬鹿!」 『気付いてもらえなくて、寂しかったよぉっ!』 「俺だって…寂しかったっ!」 『セフレとか作ってるしぃ〜っ!!』 「それは…悪かった…」 お互い、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、ただひたすら伝えられなかった伝えたかったことを、口にした。 「…勝手に俺を置いていくから…その罰だ…」 話せて、触れられる、この瞬間が。 『ごめんなさいぃ〜っ!!』 永遠に続けばいいと、強く思う。 「…でも反省したみたいだから、もう許してやる」 けど、どうしたってその思いは叶わない。 だって、こいつは死んでて、俺は生きてるんだから…。 「だから、約束」 『んっ?約束…?』 「俺とお前の涙は、これが最後だ」 もう会えない俺とお前が、お互いのことで涙を流すのは、これで終わり。 やっぱりお前は笑顔のが似合ってるから。 『…うんっ、約束!』 頬を撫でる俺の手を、愛おしそうに握って笑顔を見せる。 「愛して、た…っ」 『俺だって、愛してたよ…っ』 最期のキスに、祈りを込めた。 神様どうか、またこいつと巡り会わせてくれ…と。

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