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#殺して、僕を
「本当なんだってー!俺聞こえたもん!」
「俺も俺も!」
「俺も聞いた!!それまじやべえよ!」
携帯をいじる俺の隣で、友人が大声で騒いでいた。なんでも"呪いのDVD"があって、変な声が聞こえるとかなんとか…。
「なぁ、お前にも貸すからさ、聞いてみろよ!」
「はぁ?興味ねえ」
くだらねえって正直思った。変な声が聞こえるどうこうもそうだけど、それ見た段階でお前らすでに呪われてんじゃねーの?とか、だとしたら何の呪いだよ、とか。
「そう言わずにさぁ!お前が"聞こえた"って言ったら、信憑性上がるだろ!?」
「いや、知らねえし」
こんなおふざけに付き合ってられるか。
「…はぁ」
…なんて思うも、無意味に終わり。結局ほぼ無理やり押し付けられる感じで、鞄の中に入れられた。
『聞こえるんだって、本当に』
『そうそう、"殺して…っ"てな!』
「……アホらし。どうせ俺を騙そうとでもしてんだろ。そこまで言うなら騙されてやるよ。」
そんな気持ちで、俺はデッキにDVDをセットする。
「…ハッ、やっぱな。普通の風景じゃん」
再生された画面には、呪いとはかけ離れた、幻想的で美しい風景が映されていた。
「そんなことだろうと思った。どうせこの後にでも『ドッキリ!大成功〜』みたいな感じの映像が…」
『……て…っ』
「……あ?」
一瞬だった。
綺麗な風景と共に流れる静かなBGMに混ざって、微かに聞こえた、か細い声。
「…まさか、なぁ…」
空耳だと思いつつ、とりあえず先ほど声が聞こえた風景まで巻き戻してみる。
『……て…っ』
…やっぱ、聞こえる。何言ってるか全然わからないけど、声が入っているのは確かだった。俺はボリュームを上げ、もう一度巻き戻し、再生ボタンを押す。
『……、て…っ』
巻き戻し。
『…し、て…っ』
"して"と確かに聞こえる。友人たちは"殺して"と言ってたが、俺には別の言葉に聞こえた。
『…い、して…っ』
「い、して…?」
ほら、やっぱり"殺して"じゃない。…なんだ?なんて言ってるんだ…?
俺は最大限までボリュームを上げ、巻き戻し、再生した。
『あいして…っ』
「…っ!」
聞こえた。はっきり…"愛して"と…。
その言葉を聞いた瞬間、俺は巻き戻しと再生を繰り返す。
『あいして…っ』
『あいして…っ』
『あいして…っ』
それは、切なくも情熱的な男性の声で。
『あいして…っ』
「ああ…」
『あいして…っ』
「おれが、」
『愛して…っ』
「愛すよ」
まるで引かれるのうに、ソッと手を伸ばし、気が付かないうちに、口角が上がって。
『愛して…っ』
「こっちに、おいで」
恍惚した顔の自分を、画面に映す。
『愛して…っ』
「はやくおいで」
何に、そんなに惹かれるものがあったのだろう。
気がつけば、片手にナイフが握られていて。
「君が来ないなら、俺が行くよ」
心の中で"やめろ"と叫ぶ自分とは裏腹に、嬉しそうに腹に突き刺す自分が画面に映った。
『自分を、殺して…僕を、愛して…っ』
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