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#「死」こそ永遠の愛
好きになってはいけない人を、好きになった挙句。
「あ、起きた。おはよう」
「ん…、おはよ」
ついに一夜を共にしてしまった。
「はー、寝顔可愛かったなー」
「え、ずっと見てたの?」
「うん♡」
「やめてよ、恥ずかしい…」
好きになってはいけない理由、それは彼が"男だから"ではない。
「ふふ、照れてる顔も可愛いよ。…さて、そろそろ準備しようか?」
「…うん」
俺よりも大人びた雰囲気で優しく微笑みながら、彼はかけてあるスーツに手を伸ばす。
「緊張してる?」
「まぁ、少し」
支度を済ませ家を出る時、彼が俺の瞼に触れた。
「…目、少し腫れてるね」
「…まぁ、あれだけ泣いたらね」
彼の指先に安心して目を瞑っていると、軽くキスを落とされる。
「さ、行こうか」
すぐに離れてしまった彼の体温が、とても愛おしく思えて仕方がなかった。
それから花屋さんに行って、お墓用の花を買い、近くの墓地に向かった。
「じゃあ、俺はここで待ってるから」
「ん、すぐ戻ってくる」
彼は墓場の近くにあるベンチに座り、その先は俺一人で向かう。
「あら、来てくれたの」
「うん。…あ、俺も花買って来たよ」
「あぁ、わざわざありがとう」
墓場に着くと父と母が先に来ていて、タイミングが被ってしまった。
「あれから、もう二年が経ったのね」
「…そうだね」
父はその墓をジッと見つめるだけで何も言わず、母は今にも泣き出しそうな顔で唇を噛み締める。
「…っ、この子は、なんで…っ、」
「………。」
「なんで、殺されてしまったの…っ」
手で顔を覆い、ワッと泣き出す母。…そう、ここは俺の妹の墓場だった。
二年前の今日、妹は殺された。犯人は未だに捕まってなく、今日までの月日を父と母は悲しみと怒りを抱えながら生きて来た。
「…罪は償うもの。全部、俺に任せといて」
二人にそう言い残して、俺はその場を後にした。
「怖い?震えてる」
「…少しだけ」
下から激しい波の音が聞こえる崖の先に、俺たち二人は立っていた。
「本当にいいの?」
「…昨日まで散々悩んで決めた答えなんだから、いいに決まってる」
「妹さんのため?」
「貴方がそれ聞いちゃう?」
「あえて聞いちゃう」
「…"妹のため"って言うべき所なんだろうけど、俺も同罪だからね。
妹を殺した犯人に、恋するなんてさ。」
「俺のこと、怒ってる?」
「怒るなんてもんじゃないよ、憎んでる」
「はは、だよねー」
「でも、それ以上に愛してる」
「俺も、愛してる」
「知ってる。だから、一緒に罪を償うんだ」
「フッ、そうだね。…おいで、一緒に逝こう」
「最期まで、離さないでね」
「離すもんか。やっと手に入れたんだから」
彼の体温に包まれながら死への一歩踏み出した。
****
昔から"天才"と言われ、全てが完璧で、手に入らないものはなかったこの俺が、高校生の時に初めて恋をして…
『ごめん、付き合えない』
フラれた。
『なんで?俺が男だから?』
『…違う。俺には警察官になる夢があるから』
手に入らないものほど、欲しくなるもので。
『じゃあ、お友達でいいから』
彼を手に入れる事だけを考え、最終的に辿り着いた答えが完全犯罪。
犠牲になったのは彼の妹。
「なんで…っ、なんで妹が殺された…!?」
なんの罪もない妹が犠牲になった事件に、犯人の手かがり一つ見つけることができない自分の無力さを痛感し、だんだん壊れていった。
壊れかけてる人間程、落ちやすいものはない。
キリで穴を開けるように慎重に少しずつ彼の心の中に入り、落ちたところで。
「俺が犯人って言ったら、どうする?」
あっさり、ネタバラシ。
彼の性格上、落ちたら終わりだと俺は確信していた。
「…俺は、貴方と一緒に死ぬ」
彼が散々悩んで、泣いて、出した決断。
「(ーExcellent.)」
全て計画通り。ああ、幸せ♡
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