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だって、手を出してこないから(一)
上部を開けた半蔀から藍色の空を見上げて、耶雉は月を探した。暦の読みでいけば今夜は三日月のはずだが、その蛾眉のような姿は遠く雲に隠れてしまっているのだろうか。それがひどく寂しくて、耶雉は諦めたように寝所に戻っていく。
――君は妻にも夫にもなれる。もちろん、私の。
あの時、是愛にもらった言霊を思い出す。共に傍にあると誓ったあの夜。あれから月は一周しただろうか。是愛との関係は、きわめて良好である。朝は玻璃乃も含めて共に食事をとり、そして出仕へ見送る。夕に戻る頃には着替えを手伝ったりして、また『家族』で食事を共にする。時折、是愛は花を添えた文を贈ってくれ、歌の意味を教えてくれた。似合うだろうと、月ノ輪で嗜みとされる香も見繕ってくれた。何も不満はない。
(だけど、どうして……)
不満はないが。疑問はある。あれから触れることをしないのだ。もちろん日常的な触れ合いはある。けれどそれはあくまで手を貸したり、少しほつれた髪を直したり、その程度であり――所謂、連れ合いとしての触れ合いがなかった。
「やはり僕の体……気味悪かったんでしょうか……」
この国では、そういうことは『情を交わす』と表現すると聞いた。情、とは愛する心のことらしい。つまり是愛には、それを交わらせる気持ちはもうないのかもしれない。それを聞く勇気は耶雉にはない。そもそも……、
「こんな、いやらしい」
そういう想いを己が抱いたことが、少し意外であったし、恥ずかしくて仕方がない。
考えないようにしようとするほど、人の思考というものは深みにはまっていくものだ。それが聖人でも大師でもない、ただの十九の青年であれば猶更だ。生殖機能を失っていようとも、一度は恋しい人の熱を知ってしまった身、滑り始めた気持ちは加速していく。
(あの時の是愛さまの声……熱が、こんなにも欲しいなんて)
ひどく悪いことをしているような気に包まれたが、指の腹は彼を思い出して首筋を通った。微かなくすぐったさが走るものの、あの時に覚えた甘やかさは一切なくてもどかしい。
「ん……」
ゆっくり指を滑らせて、やがて寝巻の袷に潜らせる。初めてのことに、あまりにも心の臓が高鳴った。触れてみようなどと思ったこともない、小粒の突起に指を伸ばす。
「はあ……」
何を期待しているのか、わずかに堅く芯を持っている。ただ自らを慰めているだけなのに。
「是愛さま……っ」
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