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だって、手を出してこないから(二)
声が寝所から漏れぬよう、衣を上下の歯で噛みしめる。触れられたことを思い出しながら、胸の敏感な皮膚を撫でていく。
「ふっ……ぅ……」
吐息が荒く、衣の狭間から抜ける。
いつの間にか体の芯に点った熱をおさめるため、耶雉は両膝を立てると、恐る恐るその中心から奥まった場所へ手を伸ばした。少し体勢は苦しかったが、是愛に触れてられないもどかしさに比べれば、なんとも甘いものだ。
「……ん、ん」
腰を少し浮かせると、中指をそっと挿し入れる。けれどそこはぎっちりと閉じて、異物の侵入を拒んでいた。
(是愛さま……)
もう何度目か分からないほど彼の人の名を心の中で呼べば、微かに指の先を飲み込んだ。
「あっ……っ」
その衝撃で思わず噛んでいた衣が外れ、呆気なく声が漏れた。恥じらいに、頬に血が集まるのを感じる。耳もひどく熱い。きっといま、とんでもなくはしたない姿をしているのだろうと想像に容易かった。
「耶雉?」
「……!」
突然に几帳の向こうから声をかけられ、耶雉は咄嗟に夜具を被ると、冬眠した動物のように丸くなった。なぜ、こういう時に限って通りかかるのか。
「どうした? 具合でも悪いのか……?」
「だいじょうぶです!」「大丈夫って……出てきなさい」
まるで子供を叱るような声色のなかにも、本当に案じているのが分かる。それだけに申し訳ない気持ちと己の浅はかさを恥じる気持ちとが、適当に混ぜられた絵具のごとく濁っていく。
「……本当に、なんでもないんです」
「そうは言っても、顔が赤いじゃないか」
是愛の指先が頬に触れる。思いがけない仕草に、また皮膚が熱く染まっていくようだ。
「熱は……?」
更に、耶雉の体温が感覚的に上がる。額と額が直に触れていた。
「熱はないようだが。寒くはない――」か。そう続くであろう是愛の台詞は、耶雉の唇により阻まれる。触れるだけ、本当に触れるだけの口付けをすると、耶雉はすぐに身を離した。
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