7 / 12

だって、手を出してこないから(四)

「どうして君はそう、私を煽るんだ。年かさは労わりなさい」 「としかさ……?」  見知らぬ言葉にきょとんとした耶雉の首筋に顔を埋める。肌はすぐに熱を持ち、淡い刺激に震えた。跡を付けずに首筋の皮膚を吸っていきながら、片手は袷を探る。 「……んん、是愛さま……」  背中に両腕が回り、寝巻が掴まれた。ひしとしたこの様子がまた、是愛の体温を上げる。袷を軽く開いて手のひらを差し込むと、鎖骨から胸元へかけて撫でていく。 「……あっ」  やがて小さな突起に皮膚が触れれば、是愛はそれを軽く摘まんだ。耶雉の体が突っ撥ねるように跳ねる。 「ふっ……あ、あれ…………」 「どうした?」  上ずる声を出す耶雉の耳元で問う。熱のこもった耳朶が唇の先に微かに触れる。 「さっきと、ぜんぜん違う……んっ」 「『さっき』……?」  きゅうと指の先で掴んで転がしながら、その言葉の意味を追いかけていく。 「あっ……さっき、触ったとき、と……――あ」 「え?」  こんな最中だが、二人の時が一瞬止まった。耶雉の顔色が、みるみるうちに気まずさと羞恥を湛える。それはもはや零れ落ちるような様子だった。 「さっき触ったって? 耶雉?」 「あっ、ちが、違います……!」  薄暗い中でも、耳まで熱に染まるのが分かった。 「ここを、触っていたのか?」  親指の腹で柔らかく押しつぶされると、何かの経路が生まれたように、耶雉は悲鳴にも近い嬌声を上げる。そのまま揉むように親指を動かしていれば、背中に回っていた手は肩口を掴んでいた。 「あっ、だめ……だめっ」  ぶるぶると首を振ってまで感じてしまう様を見て、是愛はさすがに悪ふざけが過ぎたと手を止める。ようやく刺激の止まった耶雉は、全身で呼吸を整えるように息を吸っては吐いた。 「大丈夫か?」 「は、い……はぁ、僕ばっかり、恥ずかしい」 「……そんなことはない」  ちゅっと耳朶に口づけると、是愛は体を下げていく。 「私も毎夜、夢の中で君を抱いている。けれどそこには体温も、匂いも、声も、鼓動もない」  心の臓の上に、是愛は耳をつける。

ともだちにシェアしよう!