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だって、手を出してこないから(五)
「これが、耶雉の生きる音なのだな」
とくとくと、規則正しく刻まれる心音。呼吸の度にせり上がる胸部。耳に触れる体温。すべてが愛おしくて仕方ない。そうして目を閉じていると、ふと額にこそばゆさが走る。顔を上げれば、柔らかく微笑む耶雉が前髪を撫でていた。
「はい。だからずっと、聞いてください」
「ああ……もちろんだ」
改めて体を起こすと、気持ちを伝えあうようにいま一度唇を重ねる。何回目か分からない口付けだが、それでもまだ足りないくらいだ。これから何年経っても、こうして傍にいたいと、どちらともなく心の中で強く願う。
手を伸ばすと、ついに耶雉の腰回りを結ぶ帯を外した。既に緩みかけていた袷はあっけなく開かれていく。
「……あ、そんな」
開いた袷から露わになる胸部を撫でると、さんざんいじられて堅く芯を持つ突起に皮膚が引っかかる。それに舌を寄せれば、耶雉は恥じらいに身をよじった。けれどそれを止めるどころか、唾液を絡めてぬるつかせ、舌や唇で弄ぶ。
「んんっ……これ、ちか……さまっ」
耶雉の指が前髪に潜りこむ。抗議というほどではない、甘い抵抗。耶雉は与えられる刺激に振り回されながらも、胸部に沈む是愛へ慈しみの視線を送る。かつて黎星国で太子の世話係をしていた頃――太子に妹である公主が生まれたことがあった。そのときは太子を伴って、彼は公主の乳母の元をよく訪ねたものだ。
(ああ、まるで……赤ん坊のようにされて)
そんな公主の姿が重ねられ、耶雉は自然と笑みにそうになる。
「……はっ、あ」
しかし愛しい人の手のひらが腰元を撫で、それどころではなくなった。するりと下る指先は腰布ごしに臀部の膨らみを確かめるように、その形を丁寧に撫でていく。口がさけても言えはしないが、先ほど己で触れた狭間に熱が点るのが分かった。
「あ、……はぁ」
まるで焦らすかのように、是愛の手指は腰と臀部を撫でてる。その合間も胸やみぞおちを吸われて、おかしくなってしまいそうだ。
(はやく、はやく触れてほしい……っ)
そんなことが口にできれば、どんなに楽だろうか。けれどはしたなく強欲なことを知られたら、それこそ幻滅されてしまうに違いない。自然と腰が揺れてしまいそうになるのを、なんとか自制する。
「大丈夫か? 辛ければすぐに言いなさい」
「……はい、へいきなので……もっと……つ、つづけて……ください」
本当に知らなかった。清廉に生きてきたつもりでも、人はこんな風に淫らな気持ちになれるものなのか。
「耶雉……」
是愛が一瞬止まったように見えたが、すぐに腰布を剥がされた。そして両脚を割るように、持ち上げられる。
「えっ、是愛さま、こんなのって……」
「私は愚かだな。些細な言葉にすぐに煽られて、必死な姿を君に見られてしまうのだから」
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