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2日目の朝ー2
「先生、今日はどうします?」
伯父さんが苦笑しながら訊いてくる。
そうだ。昨日の宴会も大変だったのだ。
設楽の父から案内を頼まれたという浩司おじさんが山に行こうと言い、遠山が淵に泳ぎに行こうと言い、設楽は明日くらいはゆっくりその辺を散歩するから構うなと言い、そのうち酒の入った3人は(ちゃっかり設楽も飲んでいたらしい)、段々エキサイトして、終いには大ゲンカになったのだ。
何故楽しい遊びの計画でそんなことになるのか、大竹からしたら訳が分からない。5日も時間があるのだから、山にも登って淵でも泳いで散歩もすれば良いではないか。
そう言った大竹の意見はあっさり無視された。「ここで引き下がっちゃ男の沽券に関わる」と、訳の分からないことを言い出し、誰も引こうとしないのだ。この酔っ払い共め!
「取り敢えず設楽がまだ寝てるから、山は無理でしょうね。あいつも疲れてるみたいだし、今日はゆっくりさせて────」
「おはよーございまーす!!」
大竹の台詞が終わらないうちに、縁側から遠山兄妹が現れた。後ろには小学生らしい子供が3人と、中学生とおぼしき子供が4人程立っている。
「おう、優 か。おはようさん」
遠山兄妹と子供達は、皆口々に伯父さんやおばあちゃん達と挨拶を交わした後、大竹を気にするようにチラチラと視線を送ってきた。大竹も一応、誰に言うともなく「おはようございます」と口に出してから、山菜のたっぷり入った味噌汁をずずっと啜った。
「ねぇ、智くんは?」
美智 がキョロキョロしながら素直に訊いてきた。机の上には6人分の食事しか置いてない。設楽の不在は美智には大問題なのだろう。
「あぁ、まだ寝てますよ」
大竹がぼそっと応えると、美智は露骨にがっかりした顔をした。分かりやすい子だ。それとも、隠す気がないのか。
「ったく、智は~!夏休みだからって、だらしなさ過ぎだっつうの!」
遠山はぽいぽいと靴を脱ぎ捨てて、縁側から家の中に入ってきて、大竹の隣りにどっかりと座り込んだ。美智と子供達はまだ縁側の辺りでこちらを覗き込んでいる。
「あの子達は皆従兄弟ですか?」
「いや、半分従兄弟で、半分は近所のガキ。今日淵に行くって言ったらこうなった。それと、タメ口って言っただろ」
どうやらこの男は、こちらの都合はお構いなしらしい。まともに取り合うのもバカバカしい気がして、大竹は最後の米粒を綺麗に掻き集めながら素っ気なく敬語で返した。
「設楽まだ寝てますから、今から起こして飯喰わせても、出かけるのは遅くなりますよ?子供達待ってるんでしょう?」
「だからぁ、待ってるから大丈夫だって。ばーちゃん、あいつらに麦茶かなんか出してやってよ」
子供達は麦茶を貰うと、全員縁側に座り込んだ。美智はまだ部屋の入り口の辺りに座って、もじもじと所在無さげにしている。時々チラチラと奥を気にしているのは、早く設楽に会いたいからだろうか。
「俺、智起こしてこようか」
妹の様子に気づいた遠山が腰を上げるより早く、大竹が立ち上がった。
「いや、俺が行ってきます。ご馳走様でした」
食器を台所に運んでからそのまま奥の部屋に行くと、設楽はまだよく眠っていた。時計はもうじき9時を指す。よく眠っていられるものだ。
「おい、設楽」
設楽の脇に膝をついて肩を揺すると、設楽はゆっくりと目を開き、大竹の姿をそこに認めてゆっくりと笑った。
「ふふ、先生だ」
「おう、早く起きろ。台所が片付かなくて、おばあさんが困るぞ」
「うん」
そのまま設楽の腕が大竹の首に廻り、ゆっくりと自分に引き寄せる。
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