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2日目の朝ー4
「なぁ、何があったの?イジメかなんか?それとも不登校?」
「だから守秘義務って言葉の意味、知ってます?」
じっと自分を見つめてくる遠山に、大竹は肩を竦めて見せた。
「ちぇ~、特命先生かぁ~」
諦めたように遠山は再び布団にごろりと転がった。大竹は小さく溜息をつくと、「まぁ、親戚の方々が心配するほどの事じゃないんで、そう伝えてください」といかにも教師っぽい顔で付け足した。
「何?じゃあ今の状況は、事後処理的な?心のアフターケアとかいう奴?」
「まぁ、そんなところで」
「ふーん。じゃ、何で大竹センセーが?」
遠山は好奇心なのか使命感からなのか、やたらとこの件を突っ込んできた。だが、少々後ろ暗い大竹は、少しだけ喉の奥に何かが張り付いているような気持ちになって、それでもできるだけ不自然にならないように気をつけて言葉を選んだ。
「まぁ、俺が発見して、シェルターになった関係で」
「あぁ」
それで懐いちゃった訳かと、遠山は小さく呟いた。
嘘は言っていない。嘘は。
事のきっかけは確かにそうだったのだから。
だが、この後味の悪さは何だろう。
「あ」
遠山が何か思いついたように声を挙げたので、まだ何かあるのかと大竹は思わず遠山に目をやった。その目が、いつもよりも険を含んでいたことに気づいて、大竹は苦い気持ちになった。
「大竹くん、敬語止める約束だろ。タメ口きけっての」
「……」
「大竹ぇ~」
起きあがった遠山が、大竹を後ろから羽交い締めにする。さすがに186cmという大竹よりは小さいが、遠山は手足が長く、研究者にしては体格が良くて、大竹は絡みつかれた手足をすぐには振りほどけなかった。
「ちょっ、止めろよ!」
「じゃ、タメ口ね」
田舎戻ってきてまでそーゆー堅苦しいのは勘弁な訳よと遠山が笑うので、仕方なく大竹は「しょうがねぇな」と了解した。
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