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2日目・淵ー4

「あ、先生来た!」 「先生、アレ簡単!?」 「あー?学校の飛び込みで腹打ちしたことある奴は禁止だ。あの高さで腹打ちしたら、内臓飛び出すぞ」 「マジで!?」 「あと頭の角度深すぎると潜り過ぎて底に頭ぶつけて頸椎やるからあんまり真似すんな。大人がいない所での頭からの飛び込みは禁止だ。飛び込みで人死にが出ることもあるんだからな」 「マジかよー!!」  危ない真似をさせないようにわざと大袈裟に言うと、子供達は悔しそうに地団駄を踏んだ。自分も同じように頭から飛び込んで、他の奴らに自慢したいのだ。ガキはこの位威勢が良い方が良いと大竹は小さく笑うと、「おら、そっちの1m位んとこからまずは特訓だ!」と威勢良く岩場を指さした。 「特訓!?」 「やる!やるよ、先生!!」 「俺にも教えて!」  いつも「ガキは嫌いだ」と口では言っているが、大竹は子供の面倒見が良い。当たり前だ。本当に嫌いなら誰が教師になどなるものか。  それから風が冷たくなるまで、大竹は子供達をしごきまくった。設楽と過ごす時間はなくなったが、おばあちゃんのところの子供達の面倒を美智と2人で見ている設楽を、大竹は見たくなかったのだ。 「そろそろ風が冷たくなってきたな。おい、もう上がるぞ」 「えー、もっと教えてよ、先生!」 「もうちょっと!」 「お前らのもうちょっとは永遠に繰り返されるから却下だ。ほら、とっとと上がれ!よく拭けよ!」  子供達の数を勘定して、足りない子がいないかを確認する。遠山が「お疲れー」と声を掛けてきた。遠山も途中で一度大竹と一緒に子供達の面倒を見ていたが、すぐに疲れたと岩の上で日向ぼっこを始めたのだ。  設楽は美智と並んで岩の上に腰掛けて足を水に浸しながら、そんな遠山と大竹をじろじろと睨んでいた。  大竹も最後に岸まで戻り、上がろうと岩に手を掛けた瞬間、今度は設楽がザブンと水の中に飛び込んできた。 「設楽?」 「先生」  設楽は大竹の腕を掴むなり、淵の反対側に引っ張って泳ぎ始める。 「智くん!?どうしたの?」  美智が呼びかけてくるのには返事もくれず、設楽は美智とは反対側の岸に着くと、岩陰の向こうからは見えない場所に大竹を引きずり込んだ。 「おい、設楽?」 「黙って」  角が取れて丸みを帯びた岩肌に背を押しつけられ、設楽の腕の中に囲い込まれる。  設楽の髪からは水の雫がぽたりぽたりと落ちていた。  設楽が何かを堪えるような顔をして、距離を縮めてくる。その顔に何か切ない気持ちになった大竹の唇に、軽く、設楽の唇が触れる。 「よせ…。気がつかれるだろ」 「あっちからここは見えないよ」 「でも2人でこんな……不自然だろ」 「黙って」  設楽の腕が大竹の体をきつく抱きしめた。ずっと水の中にいた大竹の体は冷え切っていて、設楽の体の熱さが心地良かった。

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