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2日目・淵ー6
水から頭を出すと、「智くん!?」と慌てたような声が頭上から降ってきた。心配したような、美智の顔。
息が続かず、設楽は何度も肩で呼吸をしてから、もう一度息を吸いこんで、岸に向かって泳ぎだした。
その僅かの間に、大竹はずいぶん離れた所まで泳いでいたらしく、滝壺の傍から顔を出した。
「先生、滝壺、結構深いよ?」
「ああ、こっちの方が水も冷たいな」
もう1度潜ろうとした大竹を、遠山が止めた。
「その辺、水の流れが複雑で、滝壺に引きづり込まれんぞ」
成る程、小さいとはいえ、滝は滝だ。流れ込んできた葉っぱがぐるぐると踊っている。
「この辺渦巻いてんな」
「水舐めんな。大竹、早くこっちに戻ってこい」
設楽は大竹を心配しながら、それでも先に岸に上がった。いや、それ以上に遠山が大竹に馴れ馴れしいのが気にかかる。確かに優兄は先生より年上かもしれないけど、なんだその気安い話し方は。
先に岸に上がった子供達は、もう体を乾かして服を着て待っている。
「智兄ちゃん、2人で何してたの?」
「お前らがいたらあっちの岸まで行かれないだろ。大竹先生、鉱石とか好きな人だから、あっちの岸見に行ってたんだ」
「鉱石?」
「この辺何か出たっけ?水晶とか、瑪瑙とか」
すらすらと嘘をつく自分に嫌気がさす。それでも、小さな村でゲイばれして親に迷惑を掛けるわけにはいかないのだ。
暫くして大竹が戻ってくると、打ち合わせたわけでもないのに、大竹も同じ言い訳を考えていたらしい。大竹は握っていた掌を開いて、砂利や粒の大きめな砂を子供達に見せた。
「ほら、この透明な砂があるだろう?これが石英だ」
「石英?」
「これのでかくて形の綺麗なのが水晶だ。石英は日本中広い範囲から出てくる」
「水晶?」
美智が驚いたように大竹の手の中を見たが、そこにあるのはただの砂利だ。
「この辺も花崗岩多いけど石英の含有量は少なそうだな。どっかのズリでもありゃもう少し探せんだけど」
頭を振って水を飛ばす大竹の体は、まだ水を含んでしっとりと濡れていた。
「この辺で水晶が出るとかいう話は聞かないな」
「あぁ、石英より黒雲母が多いな。だからこの辺の岩は黒っぽいんだ」
遠山も大竹の手の中を覗き込む。大竹は頷いて、手の中の砂を淵の水に流した。
「まぁ、俺は水晶はもうおなかいっぱいだけど。信州ならフローレンス石とか苦度電気石が期待できるんだけど、ちょっとここでは出なさそうだな。設楽はまだ初心者だから、水晶探してんだろ?」
わざと大竹がバカにしたように笑うと、設楽も憤慨して返した。
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